怪奇事件を占いで読み解く「幽木武彦の算命学で怪を斬る!」~大久保清連続殺人事件【前編】~
算命学とは、古代中国で生まれ、王家秘伝の軍略として伝承されてきた占術。恐ろしいほどの的中率をもつその占いは、生年月日から導く命式で霊感の有無、時には寿命までわかってしまうという。
本企画は、算命学の占い師・幽木武彦が怪奇な事件・事象・人物を宿命という観点から読み解いていく。
前回は、昭和史に残る大事件「津山三十人殺し」と、その実行犯・都井睦雄を宿命の見地から読み解いた。
今回は、ビートたけしが演じたことでも有名な1971年の大事件「大久保清連続殺人事件」を算命学で紐解いてみる。
前中後の3回にわたって解説する。まずは前編をお楽しみいただきたい。
「ボクちゃん」の深い闇~1971年、大久保清連続殺人事件【前編】
序
今でこそ「世界のキタノ」と言われ、お笑い芸人と映画監督という二つの顔を持つビートたけし。
だがテレビに出はじめたころは、見ているこちらが不安になるほど、いろいろな意味で「画面からはみ出している人」だった。
なにかやらかしそう。
何とも言えぬ不穏な「氣」が、ブラックジョークを基本とする芸風と、いたずら小僧がそのまま大きくなったような危なっかしい雰囲気の背後に、濃厚に立ちこめていた。
そんなビートたけしが漫才師としてだけでなく、俳優としてもただ者ではないと認識させられたのが、1983年にTBSで放送されたドラマ『昭和四十六年 大久保清の犯罪』である。
「刑事さん、俺はね、悪いやつなんですよ」
取り調べで向きあうベテラン刑事(名優、佐藤慶!)に向かい、すごみをきかせて言いはなつビートたけし(大久保清)のことは、今でも昨日のことのようにおぼえている。
記憶力がよいから、ではない。
――なにかやらかしそう。
そうした演者=たけしの不穏さが、役柄である大久保清とみごとにかさなり、大久保という犯罪者の底知れぬ闇が、たけしの身体をつうじて頭の中に飛びこんできた。
ドラマを見終わっても、泥のような大久保の闇は私の脳髄にこびりついたままだった。
大久保清殺人事件のことは、もちろん世代的によく知っていた。だが「大久保とはどんな人間だったのか」と真剣に興味を抱くようになったのは、まさに「世界のキタノ」のおかげである。
大久保という男
大久保清は8人の女性に次々と暴行を働いては殺害することをくり返した、野獣のような連続強姦殺人魔。
生贄となったのは、16歳から21歳のうら若き女性ばかりだった。
1971年。大久保が36歳の春のことである。
赤いベレー帽をかぶり、しゃれたルパシカを着て画家をよそおった彼は「絵のモデルになってくれませんか」と女性たちをだまし、両親に買ってもらったクーペの新車に連れこんでは血も涙もない凶行におよんだ。
小さいころから美少年だった。甘いマスクをしていた。
親から溺愛された。幼いころの愛称は「ボクちゃん」。
それはいい。
だが成人し、二十歳で強姦の初犯となる。再犯を犯し、刑務所から出てきたあとも、母親は大久保を「ボクちゃん、ボクちゃん」と呼び、出所祝いの席でタイの尾頭付きを自ら箸でほぐしたという。
大久保はすでに25歳になっていた。
はじめて強姦事件を起こしたあとの大久保の主張がすごい。
「悪いのは相手の女である。男を誘っておきながら、いよいよというときに突っ放されては、男としてはたまらない。(中略)強姦なんてとんでもない。自分にいわせればこれは絶対に和姦である」(『昭和四十六年、群馬の春―大久保清の犯罪/筑波昭』より)
彼の理屈は警察はもちろん、検察、裁判所でも一蹴された。
だがそうした我が子の身勝手な言い分に、母親だけは「そうとも。そうとも」と同情し、こう言ったという。
「女は魔物というからの。女に経験のない若いボクちゃんが騙されるんもむりはないて」(同)
大久保が犯した数々の凶悪犯罪は、彼自身の生来の気質に、我が子を溺愛する母親と父親のゆがんだ愛、いささか常軌を逸した家庭環境が関係していたように思える。
子どもの前でも、夫婦は平気でセックスをした。
特に父親は女にだらしなく、外にも子どもを作ったばかりか、なんと自分の子どもの嫁にまで手を出した。
それがもとで子どもたち――大久保の兄(最初の嫁だけでなく、後妻まで父親の餌食になった)も大久保も人生が狂った。
そういう面は、間違いなくあったろう。
その上、母親の妄信的な愛である。
しかも大久保もまた、そんな母親に対し、ひとかたならぬ愛情を抱いていた。
そんな彼のマザコン的内面は宿命からも読みとれる。
大久保清の命式
ひと言で言うと、大久保という男のキーワードは「執着心」と「猜疑心」になるのかもしれない。
そうなるとも考えられる宿命だ。
心の内に人知れず強い「執着心」を抱えこむようになるものの、人には巧妙にそれを隠し、偽りの自分をアピールしようとする気質を持つ。
人から責められると、そのことを根に持ちながらずっと生きていくような粘着性が出ることもあり、一度疑念を抱くと、そこからなかなか抜けだせない。
そして――。
主星が「龍高星(水性)」、あるいは「玉堂星(水性)」で、その星の上下どちらかに「調舒星(火性)」あるいは「鳳閣星(火性)」が出る人体図は「推逆局」と呼ばれ、感情の起伏がとても大きくなりやすい(水火の激突)。
それがよく出れば情熱的な人柄にもなるものの、そうでない場合はブチッと切れやすいとか激高しやすいとか、人それぞれではありながら、理性では容易にコントロールしにくいものが、人より出やすくなると言われる。
なお、誤解のないように言っておくと「推逆局=大久保清」では決してない。
また「推逆局」があると犯罪者になりやすいとか、大久保と同じような命式、人体図だと事件を起こしやすいとか、そんなことを言っているわけではまったくない。
これは、私がこの連載で紹介するすべての命式、人体図――つまり「宿命」においてまったく同様だ。そう考えていただきたい。
ひと言で言えば、持って生まれた宿命プラス環境なのである。
どんなに立派なものを持って生まれたとしても、環境が悪ければうまく育たない。たとえば、幼いころから厳しく育てなければならない人が甘やかされて育てられると、確実にその人の宿命はゆがむ。
そして大久保の宿命は、奇しくもそんな算命学の考えかたが間違ってはいないことを私たちに教えてくれている。
先をつづけよう。
大久保について書かれたものを読むと、やはり「両親」の存在は彼にとってとても大きい。
まずなによりも、両親は大久保の「守護神」である。
守護神とは、その人の人生をさらに生きやすくしてくれるもの。大きくいうと人としての守護神(人的守護神)と「こんな風に生きるとよい」という考えかた的な守護神のふたつに分かれるが――。
大久保の日干(狭義における「自分自身」)は「癸(水性陰干)」で、調候の守護神(日干と月支からルールにのっとってみちびかれるもの。大久保の月支は「丑」)は「丙」「辛」「甲」。
大久保から見た母親である「庚(金性陽干)」は「辛(金性陰干)」とは陰陽の関係になる十干なので「守護神」に準じると考えてよい。
そして、十二親干法で大久保の家系図を作っていくと「甲」は父親となる。
つまり父親、母親のどちらもが、大久保にとっては得がたい守護神と言うことになるのだが、彼の生涯を俯瞰すると、たしかにそのとおりだと首肯せざるを得ない。
父親はつねに大久保の尻拭い役であり、母親はつねに大久保の味方であった。
その一方、大久保にとって「女性」をあらわす五行の「土性(戊、己)」は、彼の命式では「忌神」(苦労するもの)になるのも、不気味な符合である。
それはともかくさらに言うと、大久保は「全支集印(全地生母)」という宿命でもある。
やや難しい説明になってしまい恐縮だが、命式というものは――
それぞれの部分がこのように呼ばれている。
メインとなるのは点線の上に出てくる「天干」と「地支」だが、点線の下の「二十八元」も、その人を考察する上で無視できない、とても重要な要素。「二十八元」とは、それぞれの地支に含まれている十干たちとお考えいただきたい。
そして、大久保自身は先ほども言ったように日干「癸」。
十干の世界では、水性である「癸」を生みだすのは「庚」、あるいは「辛」という金性なので(金生水)――
年、月、日のすべての二十八元に金性が存在することになり、こういう命式は「全支集印(全地生母)」と呼ばれるのである。
「全支集印」は「全地生母」と呼ばれることでも分かるとおり、自分の命式のいたるところに母親がいる宿命だ。
母親の影響を受けやすく、言いかえるなら、母親から自由になれない。
ただその代わり、保護もされる。母親なしではいられなくなり、結果として「マザコン」にもなりやすくなる、そんな宿命である。
これが、大久保清の命式のもっとも大きな特徴のように、私には思える。
ほかにも、大運第一旬(10年に一度変わる干支。運勢を見るときに重視する。大久保は7歳運で、7歳からはじまる第一旬には「戊寅」という干支がまわっていた)を見ると「初動干支双破」という状態になり、自ら進んで不安定きわまりない人生を歩んでいきやすい「破壊」の象意が暗示されていたりするが(この運勢を見ても、過保護に育てられた幼少期の「禍」が決して小さくなかったことが想像できる。「初動干支双破」の人は、幼少期にサバイバル能力をきたえられないと、すこやかに伸びることができなくなるのである)、まずはなんといっても「全支集印(全地生母)」であろう。
こんな宿命と運勢を持つ大久保は、女性に対して異様な欲望を抱いてしまう自分を律することができず、結局事件をかさねて二度も服役。
1971年3月2日にようやく仮釈放となったものの、いよいよ強姦どころかさらに残虐な連続殺人事件まで引き起こすことになる。
最初の殺人を手はじめに、8人もの女性を殺害したのはわずか41日間のこと。逮捕されるまでに声をかけた女性の数は、127人にものぼったという(35人が車に乗り、分かっているだけで20人が強姦され、8人が殺された)。
次回は、そんな大久保清が異常な凶行をくり返すことになった1971年の奇妙な運勢についてお話したいと思う。
だがその前にもうひとり、触れておきたい人物がいる。
西川正勝。
大久保清の連続殺人事件から20年後――1991年の暮れに西日本各地で発生した「スナックママ連続殺人事件」の犯人である。
西川の宿命は、大久保ととても似ているのだ。
参考文献:
『昭和四十六年、群馬の春―大久保清の犯罪/筑波昭』(草思社)
『完全自供 殺人魔大久保清vs.捜査官/飯塚訓』(講談社)
『日本凶悪犯罪大全217/犯罪事件研究倶楽部』(イースト・プレス)
『死刑囚200人 最後の言葉/別冊宝島編集部』(宝島社)
著者プロフィール
幽木武彦 Takehiko Yuuki
占術家、怪異蒐集家。算命学、九星気学などを使い、広大なネットのあちこちに占い師として出没。朝から夜中まで占い漬けになりつつ、お客様など、怖い話と縁が深そうな語り部を発掘しては奇妙な怪談に耳を傾ける日々を送る。トラウマ的な恐怖体験は23歳の冬。ある朝起きたら難病患者になっており、24時間で全身が麻痺して絶命しそうになったこと。退院までに、怖い病院で一年半を費やすホラーな青春を送る。中の人、結城武彦が運営しているのは「結城武彦/幽木武彦公式サイト」。