2021年12月5日
【今日は何の日?】12月5日:世界土壌デー
2015(平成27)年12月5日から「国際土壌年」が開始。国連専門機関国際連合食糧農業機関(FAO)が記念日に制定した国際デーのひとつです。
さて、今日の一話は?
「嘘」
美智子が高校生だった頃の話。
美智子の家にクラスメイトの加奈子が遊びに来た
夏休み。友達との夜を徹しての受験勉強会と称してはいるものの、やっていることと言えば、DVDを見たり他愛のないお喋りをするばかり。
今夜、加奈子は美智子の家に泊まる予定だ。
お菓子も切れたことだしちょっとコンビニにでも行こう――そう加奈子が提案し二人は外へ出た。
時刻は深夜零時を過ぎていた。
外の空気は思いの外、心地が良く、美智子は夜の乾いた冷たい風を受けると、何とも言えない万能感を覚えた。
訳もなく楽しい。二人はコンビニの帰りにわざと遠回りの道を選んだ。
そして、その途中。
「あ、あそこ通ろうか」
あそこ。加奈子が指さしたのは小さな墓所だった。
道沿いにあるその墓所は、二人の背丈ほどの塀にこそ囲まれてはいるが、二箇所の出入り口が常に開放されており、確かに〈通る〉ことができる。
何度となく横を通っている場所ではあるが、入ったことはない。
「うん」
美智子は同意し、二人は墓所の中へ入った。
月明かりに照らされた墓石はどれも青い。
墓に囲まれた通路を幾らか歩くと、加奈子が
「何もないけど、振り返らないでね」
と言った。
「えっ」
と美智子は聞き返した。
「振り返らないでね」
加奈子は前方から顔を逸らさずに返答した。
「うん……」
美智子は気まずさを感じながら、頷いた。加奈子は昔からそういうことを急に言いがちなのだ。怖いことを前触れもなく言う。頭が痛いとか、ここは良くない、とかそういう類のことを。
墓所を抜け、家に戻った。
「美智子、もう大丈夫だから顔を洗いな」
「えっ」
美智子は再びそう聞き返した。
「顔、泥だらけだから洗ってきな」
美智子が洗面所へ行き鏡を見ると、確かに顔中に濡れた土がこびりついていた。
その後幾ら問い詰めても、加奈子はあの墓所について何も教えてくれなかった。
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――「嘘」高田公太『恐怖箱 百舌』より