2021年11月24日
【今日は何の日?】11月24日:いい尿の日
【い(1)にい(1)にょ(24)う】の語呂合わせから、排尿関連のトラブルに効果が期待される薬を取り扱うクラシエ製薬株式会社が11月24日に記念日を制定。
「肝試し」
アキラが中学校時代、校区にある高層団地には十階以上の建物が何棟もあった。
だが高層階のほうには空き部屋が目立ち、いつ訪れても人気がなかった。
高齢者と外国人労働者も多く、そのままスラム化するのではないかと心配されていた。
そんな折、その団地で怖い体験をする者が出てきた。アキラのクラスメイトも、ある日を境に学校に姿を見せなくなり、噂ではそのまま引きこもりになってしまったという。
「何を見たんだろうね」
「あの団地、頭のおかしいのが沢山住んでるんじゃねえの?」
「一人で行ったの? 用もないのに?」
その団地のある棟の十階は「出る」ということだった。
そこで冬休みに、アキラとヒデ、コータローの三人で肝試しに行くことになった。
出ると噂の階は十階だ。エレベーターのドアが閉まると、カゴは酷く尿臭かった。
エレベーターを下りる。暗い蛍光灯の点る廊下が左右に伸びていた。
「おい、どっちに行くんだ?」
ヒデが小声で訊ねた。騒ぐと通報されるかもしれない。
「廊下の突き当たりの非常階段を下りて、九階からエレベーターで帰るんだ」
コータローが肝試しのコースを答えた。
十階は全てのドアにガムテープが貼ってあるという噂だった。
確かにエレベーターの前のドアは、ガムテープが大きくバッテンに貼られていた。
「やべぇな」
唾を飲み込む。
そのとき、アキラが廊下の端を指差した。突き当たりに非常階段があるはずだが、そのすぐ脇のドアが大きく開いていた。
「あれ、人がいるってことだよな? 見つかるとヤバくねえか?」
だが、そのときはそのときだと開き直り、三人は歩き出した。
廊下は胸ぐらいの高さの塀があったが、ちょっと身を乗り出せば下まで真っ逆さまだ。
自殺が相次いでいる、という噂も真実味があった。
三人は、開いているドアの脇まで辿り着いた。重い鉄の扉がドアストッパーも無しで開きっぱなしになっている。真冬の夜中である。ドアを開けっ放しにしているのは不自然だ。
そのとき下の階から、スリッパを履いた足音が非常階段を上ってきた。
三人は顔を見合わせた。
住人だ。通報されたらヤバい。
だがその足跡は、非常階段の一番上、あと一歩で十階の廊下というところで止まった。
三人はその方向をじっと見つめた。だが、そこから誰も覗き込んでくる訳ではない。
ヒデが一歩踏み出した。すぐ前にはドアがある。もう一歩。ドアの内側が視界に入る。
ドアの中を覗き込んだ。暗い部屋の中央に、煌々とした月明かりに照らされて痩せた裸の男が土下座しているのが見えた。
最初、ヒデにはそれが何か分からなかった。真っ白になった頭に疑問符が浮かぶ。
何で裸の男がいるんだ? ガリガリだぞ。何で土下座してるんだ?
土下座姿の男はその姿勢のまま音も立てず、ドアのほうに滑ってきた。
「うわあああ!!」
ヒデが大声を上げた。残りの二人はその声に押されたように、エレベーターに向かって一目散に走り出した。遅れてヒデがエレベーターの扉に手を掛けたときには、二人は「閉」ボタンを連打しているところだった。
翌朝から三人は揃って原因不明の高熱を出し、一週間寝込んだという。
★
――「肝試し」神沼三平太『恐怖箱 百聞』より