2021年11月22日
【今日は何の日?】11月22日:いい夫婦の日
【い(1)い(1)ふ(2)うふ(2)】の語呂合わせに因み、日本生産性本部余暇創研が11月22日に記念日を制定。11月は「ゆとり創造月間」でもあり、パートナーへ普段はなかなか伝えられない感謝の想いを伝える日にしたいですね。
さて、本日の一話は?
「中古物件」
『うち、今度引っ越すことになってね。て言っても市内なんだけどさ』
滝川さんは電話口でそう言った。
『次の子が生まれたらアパートじゃ手狭になるし、うちの実家マンションだしね。だから、小さくても古くてもいいから庭の付いた一戸建てがいいよねえ、なんて話をしたらみんなその気になっちゃって』
とはいえ、若夫婦だけではなかなか家など買えるものでもない。そこに、孫と一緒に暮らしたいご両親が、喜々として頭金のスポンサーになることを名乗り出た。
仕事で忙しいダンナさんに代わって、滝川さんとお母さんの二人でここ数日不動産屋巡りをしているのだという。
『それでねえ。今日、中古で良さそうなのがあったんだけどさ』
不動産屋の若い社員に案内されて、さっそく現物を見に行った。
事前に情報誌でチェックした物件は、立地良好間取り充分。庭は広く駐車場付き。
その上、安い。
「今、問い合わせが相次いでいる人気物件です」
不動産屋は玄関の鍵を開けながら営業スマイルを浮かべた。
「以前にお住まいになっていた方が大変綺麗にお使いでしたので、中古と言いましても新築同様です」
玄関ホールも広く、白い壁が室内に明るい印象を与えている。
「内装はすべてやり直してあります。ご覧の通り壁紙も天井も染みひとつ……」
不動産屋が指さした廊下の天井を見あげた。
子供の手形が付いている。
手形は、廊下の天井にびっしりと隙間なくあった。埃で汚れた掌を丹念に押し付けて回ったような痕だった。
「……これ! ちょっと、これなんですか!?」
滝川さんは天井を指さして叫んだ。
振り返ると不動産屋は真っ青になっていた。
「ああああ、あのこれ? これは……掃除し忘れです! すぐに綺麗になります!」
『……ねえ。冗談じゃないっての。もちろん速攻でキャンセルよ』
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――「中古物件」加藤一『禍禍ープチ怪談の詰め合わせ』より