見出し画像

2021年12月28日

【今日は何の日?】12月28日:身体検査の日

1888(明治21)年12月28日に、当時の文部省が、すべての学校で毎年4月に生徒の活力検査(身体検査)を実施するよう訓令を発したことにちなんで制定された記念日。

さて、今日の一話は?

「笹子トンネル」

「もう、てっぺん回った頃だったよ」
 館さんは言った。深夜零時過ぎの話である。
 そのとき、館さんは急ぎの用事で中央高速を東へ東へと走っていた。
 中央高速は山を貫いており、アップダウンも激しい。路面をまばらに街灯が照らしていた。
 一台前には幌を張ったトラックが走っている。その幌の端が、バタバタと風になびいて揺れている。周囲に他の車はない。
 館さんが乗っている車はスポーツタイプで、リトラクタブルヘッドライトが装備されていた。車体の内部にヘッドライトを格納できるタイプだ。このライトは一般的な車よりもやや上の位置を照らす。そのときもヘッドライトの光はトラックの幌を照らしていた。
 光の輪の中に子供の姿があった。年の頃は七歳か八歳か。
 目を疑った。子供がバタバタとひるがえる幌に必死としがみついている。
 トラックの荷台に乗り込んで遊んでいるうちに、そのまま発車してしまったのだろう。
 もうじき峠の長いトンネルにさしかかる。トンネルの長さは四千メートル以上ある。
 トンネルに入る前にトラックの運転手に知らせねば。館さんはトラックにパッシングをした。パッシングを受けて、トラックはハザードランプを点けた。前に行けという合図だ。
 違う。そうじゃない。だが、それを伝えるすべがない。
 もう目の前にトンネルが迫っている。子供は全身の力で幌にしがみついている。
 トンネル内を照らすナトリウム灯のオレンジの光が見えてきた。
 子供が何かに気付いたのか、ゆっくり後ろを振り返った。
 必死の形相をしていた。
 子供はそのまま、ゆるゆる身体を反らしてくる。
 幌を掴んでいた手が片方広げられた。明らかにこちらに飛び移ろうという体勢だ。
 子供は身体を半身にしたまま跳ぶタイミングを計っているようだった。
 目を奪われ、車線変更をすることすら叶わず、館さんはトラックの後ろを付いていく。
 そのままの状態で走り続ける。脂汗が額に滲んだ。
 オレンジの光が途切れた。トンネルを抜けたのだ。その途端に子供の姿は消えた。
 我に返った館さんはそのトラックを追い抜いて、猛スピードで走り去った。

「笹子トンネル」神沼三平太『恐怖箱 百眼』

☜2021年12月27日 ◆ 2021年12月29日☞