2021年11月20日
【今日は何の日?】11月20日:世界こどもの日
1959(昭和34)年11月20日に「児童の権利に関する宣言」が、さらに1989(平成元)年11月20日に「児童の権利に関する条約」が採択されたことに因み、国連が記念日に制定した国際デーのひとつです。
さて、本日の一話は?
「キーホルダー」
緒方さんという女性から聞いた話。彼女は所謂〈視える人〉である。
大学生の頃、同学年の石井という男子学生に彼女ができたというので、部室で延々のろけ話を聞かされていた。
そこに後輩の裕子がふらりとやってくるなり石井に訊ねた。
「石井先輩、何ぶら下げてるんですか」
裕子もまた〈視える人〉であるが、それは殆ど公言していない。
「え? 何?」
「鍵束んとこですよ先輩。それ何ですか」
そう言った後で裕子は顔色を変え、「あ、何でもないです、何でもないです」と手を振って否定した。
そうなると気になるのが人情だ。石井が裕子に何がどうしたか言えと迫った。裕子は「気分悪くしないでくださいね」と前置きして白状した。
石井の腰からぶら下がった鍵束。そこからさらに肌色の手みたいなものがぶら下がっていて、ぷらんぷらんと左右の太腿に絡みついているように見えたのだと告げた。
「私の気のせいだと思うので、気にしないでください」
石井は何か思う所があるのか、黙ったまま部室を出ていった。
「……あんたさ、石井に言ったことだけじゃないでしょ」
裕子に何が見えたか正直に言うように迫った。確かに緒方さんも、石井のキーホルダーの所で、何かがちらちらしているのは気になっていた。
「石井先輩のキーホルダーに、何か変なストラップが付いてるなと思ったら、気持ち悪いものだったんですよ。小さな手首が幾つもメザシのように連なってぶら下がってて。多分あれは全部子供の手首。肉付きからしてきっと凄く小さい子供のもの」
ああ、やっぱりね。のろけ話に出てきた年上の彼女の関係だろう。
「ちゃんと収まるところに収まるといいね」
裕子は頷いた。
しかしそれ以降石井は部室に顔を出さなくなり、そのまま疎遠になってしまった。
一年ほど経って、共通の知り合いに石井のことを訊ねると、丁度一年ほど前から悪い女に引っ掛かって、もうこの近所にはいないよと聞かされた。
★
――「キーホルダー」神沼三平太『恐怖箱 百眼』より