2021年11月13日
【今日は何の日?】11月13日:いいひざの日
【い(1)い(1)ひ(1)ざ(3)】の語呂合わせにちなんで、ゼリア新薬工業株式会社が11月13日に記念日を制定。寒くなると膝や関節が痛みますね。皆様、ご自愛ください。
さて、本日の一話は?
「ぴしゃりぴしゃり」
氷見さんは都心に通うサラリーマンである。
通勤時間は二時間近いが、幸いなことに最寄りが始発駅である。駅で数本やり過ごせば必ず座れる。その日も氷見さんは、満員電車で座って携帯電話を弄っていた。しかし、その日に限って視界の端で何かが動くのが気になった。
顔を上げると、女性が吊り皮に掴まりながら、もう片方の手で自分の膝の外側を、ぴしゃりぴしゃりと叩いていた。
見ればストッキングの上に小さくて黒い何かが張り付いて動いている。
大振りの昆虫といったサイズである。だが、シルエットは人間のそれであった。
氷見さんはじっと息を凝らして観察を続けた。
女性は無意識なのか、時折吊り皮から手を離しては黒い人を掌で払うようにぴしゃりぴしゃりと叩く。彼女のもう片方の手は、ずっと携帯を弄っていた。
何度か叩かれた黒い小人は床に落ちた。
氷見さんは目で追ったが、小人はすぐ隣の青年の靴に踏まれて消えてしまった。
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――「ぴしゃりぴしゃり」神沼三平太『恐怖箱 百舌』より