2021年12月18日
【今日は何の日?】12月18日:ナボナの日
みんな大好き、ナボナ! 1938(昭和13)年12月18日に、ナボナなどの和菓子製造販売事業を展開している亀屋万年堂が創業したことにちなんで、同社が記念日に制定しております。
さて、今日の一話は?
「クッキー缶」
親戚のおばちゃんが遊びに来た。
お土産はクッキーだ。
缶入りの美味しい高級クッキー。
でも、ママにこう言われた。
「みんなにって言っていただいたんだからね。一人で全部食べちゃダメよ。いい子にしてお姉ちゃんたちが帰ってくるまで我慢しなさい」
そう言ってママはお買い物に出かけてしまった。
僕はいい子なので我慢する。
いい子だけど、でもちょっと我慢できなくなってきた。
「一枚くらいならいいよね」
そっと丸い蓋を開けると、音楽が流れてきた。
びっくりして蓋を閉じると、音楽は止まった。
そろそろと蓋を開けると、再び音楽が流れ出た。
曲名はわからない。でも、オルゴールのような、パパがよく聴くクラシックのような、そういう優しくて温かいメロディだ。
蓋を閉じると止まり、蓋を開けるとその続きから曲が始まる。
何度開けても何度閉じても同じように曲が流れ、止まる。
これはオルゴールが入っているのかもしれない。
あまりにも美しい調べだったので、クッキーをつまみ食いすることも忘れていた。
そこにママが帰ってきた。
「何してるの?」
「ママ凄いよ、この缶。開けると音楽が鳴るんだ」
ママの目の前で缶を開けて見せた。
しかし、音楽は聞こえなかった。
「あれえ?」
ママに信じてもらおうと何度も繰り返すのだが、ピクリともしない。
ママはクッキーの缶を手に取ると、蓋を開け、中身をすべて取りだして僕に見せた。
「ほら。仕掛けなんて何もないのよ」
缶はただのブリキの缶だった。
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――「クッキー缶」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』