2021年11日1日
1日1話、実話怪談お届け中!
【今日は何の日?】11月1日:犬の日
ワンワンワン!の日。ペットフード工業会などの6団体が「111」を11月1日に見立てて記念日を制定しております。
さて、今日の一話は?
「濡れ衣」
高校時代のある夏の夕暮れ。
家路を急いでいると、ある一軒家の壁の脇で犬が糞をしている。
飼い主と思しき人物は、糞を片付けることなく当然のようにそのまま歩き出した。
「何だ、すげぇマナー悪いな」
厭な気分になって、後ろ姿に溜息を吐く。
その背中に、ポスンと何かが当たって落ちるのが見えた。
糞だ。
たった今犬がひり出した、ホヤホヤのソレだ。
飼い主はキョロキョロと辺りを見回し、怪訝そうに頭を傾げた。
犬が糞をした家は、屋根の梁が重なるすぐ下に田の字を菱形にしたような形の通気口が付いていた。
そこに一メートルくらいのひょろ長い白い布が括り付けられている。
風に煽られていつも吹き流しのようにひらひら揺れているのだが、ついさっきまで通風口ではためいていたその布が、今は地面すれすれのところにまで、だらりと垂れ下がっていた。
布の端にはぺらぺらで平たく薄っぺらい指らしきものが付いている。
その形状はどう見ても人の手だ。
それが先程の犬の糞を摘み上げ、飼い主へ向かってポイッと放り投げた。
再び背中にポスン、と当たる。
振り向きざま、飼い主がこっちを睨み付けた。
いやいやいや、俺じゃねーし。
何処からどう見ても、ここから投げて届く距離じゃねーだろ。
目が合って一瞬焦る。
どうやら、相手には手が見えないらしい。
尚もこっちを睨んでいる。
ややあって、飼い主は何やら悪態を吐いて歩き去った。
手は、飼い主が去ったのを確認したように、シュルシュルと通気口へ戻っていく。
そして何事もなかったかのように、白布は風にひらひらと靡いていた。
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――「濡れ衣」ねこや堂『恐怖箱 百聞』より