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増ページで恐怖が迸る!新作30話書き下ろし ベスト版最終章『怪談社THE BEST 鬼の章』(伊計翼)著者コメント&試し読み1話

増ページで恐怖が迸る!
傑作に大幅加筆を加え、「廃校の怪談」ほか新作30話書き下ろし

あらすじ・内容

心霊TV番組「怪談のシーハナ聞かせてよ。」「怪談好きが集まるBAR REQIEM」のレギュラーや怪談ライブ、YouTubeなどでも活躍中の怪談師・糸柳寿昭と上間月貴。
彼らが所属する怪談社の人気既刊本〈十干〉シリーズより、自ら厳選した怪談に大幅加筆したベスト版最終巻。
・中学生の友達の額をふざけて指で突いたらその指がズボリと…「指先の脳」
・買い物から買ってきたら家の敷地から見知らぬ少女が飛び出してきて…「便利屋がいた話」
・心霊スポットに入り込み、紙垂がかかった扉の鍵を開けたのだが…「廃校の怪談」
――など、書き下ろし新作30話を含めた61話を収録。怪談に塗れて溺れろ!

著者コメント

 2010年に始まった怪談社シリーズの最後のBEST「鬼の章」です。ぼく自身、そして周囲の方々から無理やり聞いたお気に入りの話、そして30話ほど追加しております。
 CSの番組『怪談のシーハナ聞かせてよ。』で好評だった「廃校の怪談」も収録しています。怪談師の語りでは削られている箇所もありましたので、フルバージョンで震えあがってください。
 喜怒哀楽をテーマに綴った実話シリーズ、本当の最終巻です。ご堪能くださいませ。

伊計翼

試し読み1話

同じ屋根の下の話

 U太さんが子どものころの話である。
 実家の台所の横にある部屋、そこにおんながいたという。
 すらりとした細い体形、長い髪で大きな黒目が特徴的な若いおんなだった。いつも部屋に閉じこもり滅多に顔をださない。両親が不在でU太さんが留守番をしていると、部屋からでてきて家のなかをうろつくことがあった。目があっても反応はなく、あちこちの部屋を歩きまわって、いつの間にかいなくなっている。なぜかいつも片手にバイオリンのような楽器を持っていたが、弾いているところはみたことがない。
 両親はおんなのことを知らないようだった。なぜかはわからないが、U太さんもおんなが何者か追求せず、ときどき現れる見知らぬひととしか認識していなかった。
 U太さんはそのおんなを「お姉ちゃん」と呼んでいた。
 何度も呼びかけたことがあったが、彼女が呼びかけに答えたことはない。
「あ、お姉ちゃん。久しぶりだね」
「こんにちは。もう少ししたらお母さん帰ってくるよ、お姉ちゃん」
「お姉ちゃんって、いつも奥の部屋でなにしているの?」
 一瞬だけU太さんのほうをむくこともあった。
 だが、それだけで、ほとんどは反応がなく、喋ったところもみたことがない。
 U太さんが小学二年生になるころには、おんなはいなくなった。
 ――きっとお姉ちゃんはゆうれいで、子どものときだけみえたんだ。
 そう思ったのはU太さんが大学生になったあたりのことらしい。
 このまま誰にも話さず忘れていくのだろうと考えていた。
 先日、妻と長男を連れて実家に遊びにいった。
 U太さんの長男が「おんなのひとがいた」といいだした。U太さんの記憶がよみがえり(お姉ちゃんだ)と嬉しくなった。そこでU太さんは母親に思い切って話してみた。子どものころ、台所の横の部屋から楽器を持ったおんなが現れて、ときどき家のなかを歩きまわっていたこと。そして、自分には亡くなった姉はいなかったか。もしくはこの家にむかし音楽家の女性が住んでいたかと尋ねた。
 母親はこう答えた。
「台所の横の部屋ってどこ? そんな部屋ないよ」

―了―

著者紹介

伊計 翼 (いけい・たすく)

怪談イベント団体「怪談社」の書記として怪談師が取材する怪談を記録している。著書に「怪談社書記録」「怪談社十干」「怪談社THE BEST」各シリーズ、『怪談与太話』『魔刻百物語』『あやかし百物語』『恐國百物語』『怪談社RECORD 黄之章』『怪談師の証 呪印』ほか多数。

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