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【第54話】真理を阻む棘(いばら)の道

注:この物語は、私の身に起きた「完全実話」ですが、
プライバシーに配慮し、登場人物や企業名等は原則仮名です

(前回より続き)

周囲から「田久保さんは悟っている」などと言われるほど、

前の会社に所属していた頃の自分は、何があっても動じることなく、いつも泰然自若としていたはずだった

流石に、当時から自分が悟っているとは到底思っていた訳ではなかったが、ムカッと来る感情を抑えられることこそが、良い事だと思っていた

そしていつのまにか、そもそもそんなマイナス感情が湧き上がるセンサーが、自分の中にあったことすら忘れるほど、何かがあった瞬間、意識せずとも条件反射で、プラス思考に切り替わる自分になっていた

それほど見事に、自分の心と体にプラス思考が完全に定着していたのだ。

それが自分を、悟りとは真逆の方向に向かわせていたことにも気づいていなかった。

だが、この瞑想教室に通う様になってから、だんだんと自分のマイナス感情を認め、ありのままに人に話すようになっていった

瞑想を繰り返し、自分の感情を味わうことで、少しずつ、なぜ今の自分がこうなったのか、

自分の劣等感を克服するために、徹底的に身につけてきたプラス思考を、知らぬ間に、自分の感情にフタをするという、誤った方向で使うようになっていたことに気づき始めていた。

ところが、東山さんにしてみれば、以前は何事にも動じず、感情もほとんど露にしたことのない私が、次第にイライラしたり、感情を出したり愚痴を言う様になっていったので、

「田久保さん、一体どうしたんだ?」

と思っていたようだった。

また、経営状態も悪化の一途だったので、私たち二人の会話も、愉快にはなりにくい。

しかも、東山さんは私に約束した報酬を支払えない、という後ろめたさもあったから、余計に私に気を遣っていたように思う。

この頃から少しずつ、東山さんと私の関係も、ギクシャクし始めた

以前なら、何があっても完全に理性でコントロールしていた自分だったが、次第に自分の感情が表面化していく様が、この頃の記録に記されている。

10月8日:

「最近気づくのは、自分が少し感情的になったという事。

それは、「感情を味わう」というアファメーションの反応なのか?

思えば自分は「感情的になる」という事を極力抑えてきた。

男らしくないとか、自分もいちいち些細なことに動じるのが嫌だったしね。

そこで、何事にも動じない…そんな姿を理想として、頭に来る事があっても、ふ~っと深呼吸して、

たいしたことないと思ったり、プラスに捉える努力をし、ついこの間までは、ちょっとのことでは動じなくなった。

今でもそれはいい事のように思えるけど、実際は、どうなのか。

ただし、そうした反動なのか、感情を味わうという課題が、自分にとっては結構大変だった。

というかあまり味わえないんだよな。

ここ数日というと、提携先の会社のずさんな対応や諸々の細かいことに腹が立ち、

イライラしてつい愚痴をたらしてしまっている自分に気づいた。

その時には“味わう”というより、後から、「あっ、腹立てて、愚痴ってる。俺。」という感じ。

愚痴を東山さんと言い合いっても、決して後味のいいものじゃない。

“味わう”事をあまり意識しないからか、

その感情がスッと消えるというような感じはあまりない・・・」

 ・ ・ ・

抑えていた感情が表面化し、ありのままを認めるようになり始めたはいいが、今度は感情を客観視できず、ある側面では自制が効かなくなり始めていた。

棘(いばら)の道で鎧を脱ぎ捨てた自分は、もがけばもがく程、肌には傷がつき、痛みは増し、苦しみを味わった

きっと、そこに真理があるはずだと信じて瞑想を続けていたが、現実を目の前に、感情に翻弄されそうになる自分がいた

そんな中、新たな打開策を模索しようと、東山さんと経営戦略を見直すことを考えた。

というよりは、あまりに営業結果が出ず、方針変更を余儀なくされたのだ。

以前の記事でも書いた様に、企業相手では成約までに時間がかかり、今の経営状態では、体力が持たないとようやく気づいた。

今までの自分の営業経験を生かすなら、個人向け商品の方がいい。

個人向けの方が、営業活動の結果が出るのも早いことが分かっていた。

そして、それまで企業向け研修コンテンツの一つとして、自らも資格を取得したコーチングで、個人向け商品の販売権利を得る事を考えた。

季節は秋に差し掛かろうという頃。

コーチング会社の社長にアポを取り、東山さんと二人、まるで戦闘に向かう戦士のように、乗り込んでいった。

これが、起業して以来始めての快挙となる、驚く様な反響のキッカケとなった。

(次回へ続く)


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