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【第29話】一瞬早すぎず一瞬遅すぎもしない時に…

注:この物語は、私の身に起きた「完全実話」ですが、
プライバシーに配慮し、登場人物や企業名等は原則仮名です

(前回より続き)

今井次長の元に結束した外交セールス部・B商品課は、確実に力をつけ、それまでは社内で存在すら知られていなかった様な状態から、A商品課とも対等に張り合うぐらいの業績を上げていた。

その頃、A商品課に異動した赤坂君の代わりに、新しく長沢さんが入社。

この長沢さんもユーザーとして商品をこよなく愛し、その点でウマがあったのか、すぐに違和感なく溶け込んだ。

そんな、順風満帆と思えたこの時期、その事件は起きた

少し前、電話営業部内で、驚く様な人事異動があった。

私が電話営業部に所属していた時代に、私を厳しく指導してくれた上司の山川本部長が、管理部門に異動となったのだ。

その代わりに、部内ではかなりの実力者だった、勝俣さんが部長に就任。

この人事異動をきっかけに、勝俣さんは見る見る内に才能を発揮し、電話営業部の売上も輪をかけて加速した。

そんな、急速に成長する部を支える役割として、今度は今井次長が抜擢され、外交セールス部から電話営業部に引き抜かれてしまった

「今井次長がこの課からいなくなる・・・」

私にとっては、本当にショックな出来事だった。

またしても、心の支えを失ったような状態になった。

この頃のB商品課は、全社の中でも飛びぬけて結束力があり、業績は上げつつも、和気あいあいとした独特の雰囲気があった。

結婚したばかりの私のマンションに、今井次長以下、課のメンバー全員が集まって食事をしたりと、家族ぐるみの付き合いをしていた。

信頼できる上司と部下。

お互いを高めあえる同僚。

共通の目標に向かって仕事に打ち込む同士として、とても調和がとれていたのだ。

しかし、会社の見方は少し違った。

確かに、外交セールス部において、全く存在感が薄かった部署が、驚異的に売上を伸ばしたことは事実だったが、会社全体の採算部門としては、まだまだ地位など確立されたと言えるようなものではなかった

圧倒的存在感と売上を誇る電話営業部のためなら、B商品課のトップを引き抜くぐらい、大した影響ではなかったのだろう。

大海原に漕ぎ出したばかりの小型船が、大波を乗り越え、ようやく沖の穏やかな海洋へ出ようとしたとき、横からやって来た大型客船に、船長を連れていかれたようなものだ。

そして、ヘッドを失った私は、当時、役職としてはまだ主任だったにもかかわらず、ところてんのように押し出されて、B商品課のリーダーとなった。

有力者の居ないB商品課は、外交セールス部の中で、まるでポツンと取り残されたような感じだった。

しかし、それなりの業績も上げてはいたため、会社としてもわざわざ課を潰す理由もなかったのだろう。

私自身、今井次長を失ってもなお、B商品課への強烈な思い入れがあり、何とか今井次長の意志を継ぐべく、トップクラスの業績を維持して頑張った。

そんな頃、またしても私の運命を変える出来事が起こる

それは、私個人にとっての大事というだけではなく、会社にとっても、社運をかけた大勝負、と言っても過言ではない出来事だったろう。

当時、能力開発教材の販売会社として、国内に2大勢力があった。

一つは私が所属した会社。

そしてもう一つは、アメリカから入ってきたライバル社だった。

私の所属した会社は当時、業績No.1で、事実上の業界最大手だったが、ライバル社の存在は疎ましかったはずだ。

実は、ライバル社の営業スタイルは、まさに、私の所属していた外交セールス部と同じものだった。

ここに、会社は目を付けた。

電話営業部の販売スタイルは、他社を寄せ付けない、圧倒的なものだったが、外交セールス部はまだ脆弱な面が多々あった

ライバル社を完全に引き離し、業界での不動の地位を確立するために、外交セールス部を徹底的に強化すべく、驚くべき大胆な施策が取られた。

何と、ライバル社の代理店の中で、個人の売上で世界一にもなったことがある、業界では伝説のセールスマン、北野氏を引き抜いたのだ。

そして北野氏は、外交セールス部の本部長として迎え入れられた。

外交セールス部にとっては、部の設立以来の、衝撃的な出来事だった。

北野氏はすでに還暦に近い年齢で、私とは30近くも年は離れていたが、そのパワーは圧倒されるほどだった。

私が影響を受けた哲学者の一人に、森信三先生がいる。

森信三の有名な言葉に、このような一文がある。

「人間は一生のうち逢うべき人には必ず逢える
 一瞬早すぎず一瞬遅すぎもしない時に・・・」

私にとって、北野氏との出逢いは、森信三のこの一文を、まさに裏付けていた。

その裏付けされた事実は、この先の私を待ち受ける、ドラマチックな展開に示されることとなる。

…初めて、私が北野氏に出逢ったときの衝撃は、頭をハンマーで殴られたような、強烈にセンセーショナルなものだった

(次回に続く)


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