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【第18話】真面目の空回り

注:この物語は、私の身に起きた「完全実話」ですが、
プライバシーに配慮し、登場人物や企業名等は原則仮名です

(前回より続き)

上司や先輩からの極端に愛情溢れるしごきに耐え、努力と根性の日々を送る毎日。

それなのに、成績はなかなか芽が出なかった

全く売れなかった訳ではない。時に、それなりの数字を出しそうになったこともあった。

しかし、その会社における、実績と呼べる様な目標達成のラインにはほど遠かった。

半年も経つと、常に下位にいるヤツというレッテルが貼られ、逆の意味で目立って来る。

始めの数ヶ月は、「大丈夫」と励ましてくれた先輩からも、

「素直ないいヤツだし、誰よりも頑張っているんだけど……」

と、好意的な目ではあったが、いつまでもうだつが上がらない、可哀想なヤツだと思われる様になった。

後輩もどんどん入社し、私の成績をどんどん抜いて行く。

その頃、山川本部長が、成績の悪い社員にはっぱをかけるため、当時ブームになっていたサッカーJリーグに便乗して、成績の書かれたホワイトボードに、イエローカードやレッドカードを付けた。

私は、レッドカードの常習犯だった。

その頃の私は、よく辞める決意をしなかったものだと思う。

本音では、ネガティブな感情に押し潰されそうな自分を、プラス思考で何とかフタをして保っていた

なぜ辞めようと思わなかったのか、当時の日記を読み返し、その頃の気持ちを思い出しても、その明確な理由を見つけることは出来ない。

しかし、自分が扱っていた成功哲学の商品への絶対的信頼と、「それを扱う自分が成功できない訳が無い」という確固たる想いがあった。

もっと正確に言えば、「絶対に成功してやる」という想いと、当時、徹底的に勉強していたプラス思考が深く定着し、「ここで成功する」以外の結果の可能性を、受け入れなくさせていたようにも思う。

また、自分自身へのプライドと親を安心させるため、そして、当時の彼女を絶対に幸せにするためにも、やっと出逢った、自分が自信を持って人に勧められるこの商品で、絶対に成功しなければならないと思っていた。

以前の様に、目の前の現実から逃避する人生はまっぴらだった。

工事現場でアルバイトをしながら味わった、何も無い、情けない自分にはもう二度と戻りたくない、という強い気持ちもあった。

しかし見方を変えれば、最初の会社を辞めた時、中途半端に次の会社を選ばず、あそこまでのどん底生活を味わったお陰で、この営業時代に苦しい想いをしても、気持ちが折れない強い心の自分が形成されていたのだ。

どんなに成績が上がらなくても、厳しくしごかれても、手のひらにマジックで目標数字を大きく書き、通勤時間もずっとイメージトレーニングをした。

折角お客様と電話が通じても会話が続かないため、成績の良い先輩の営業トークを盗もうと、先輩の電話中に後ろに立って必死にトークを書き写した。

そのノートを何度も何度も読み返し、電話する時にも手から離さず、ほとんど読みあげるように話した。

ちなみに、そのトークマニュアルのノートは、今でも私の手元に残っている。

先輩のセールストークを書き写したノート

あまりに繰り返しページをめくったため、角は落ち、用紙が毛羽立ってフワフワになり、閉じてもピッタリと紙が納まらないほどだ。

この当時、会社から渡される顧客名簿は、成績上位者には、比較的、可能性の高いお客様の名簿を渡された。

会社としても当然、お客様に正しく商品をご案内出来る能力のある人に対応してもらいたいから、当たり前だ。

新人は一番条件の悪い名簿を渡され、だからこそ一流の営業マンとして鍛えられる。

ここで這い上がってくれば、その後はある程度安定に近づいて来るのだが、最初でつまずくとマイナスのスパイラルに陥り、ますます抜けられない

この頃の私を見て、社内で交わされていた会話があった。

「田久保は、真面目であんなに頑張ってるのに、どうして成績上がらないんだろう?」

「彼は、ユーザー上がりだからね」

「ああ、なるほど……」

(次回へ続く)


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