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【第23話】 すぐ隣にある「別世界」

注:この物語は、私の身に起きた「完全実話」ですが、
プライバシーに配慮し、登場人物や企業名等は原則仮名です

(前回より続き)

私が異動した先の外交セールス部は、販売代理店を開拓するための部門でもあったが、実際には、当時、販売代理店を育てて売上に貢献するには、まだ発展途上にいた。

事実上、部の売上は所属社員による直販がメインであり、営業マン自身のコミッションも直販が頼りであった。

しかし、販売に至るまでの方法は、私が前に所属していた電話営業部とは、全く違った

電話営業部の営業マンにとっては、お客様に電話が繋がるゴールデンタイムは、日中ではなく、むしろ夕方からだ。

だから、ほとんどの営業マンは、夕食を済ませた後も席を離れず、夜遅くまで電話に向かった。

しかし、外交セールス部の営業マンは、早朝から駅前でチラシを配ったり、ポスティングをするなどの外回りをし、問合せが入った人には、まずアポイントを取って、直接会ってセールスする。

活動時間は主に日中で、出先から帰ると事務整理をし、ほとんど席にいる時間もなく、遅くとも19時か20時にはパチパチと照明を消し、電話営業部がガンガンに電話をかけている横を通り抜けて、そそくさと帰るのだ。

それが当時の外交セールス部のスタイルだったし、初めから「そういうものだ」という空気が流れていた。

二つの営業部は、まるで同じ会社とは思えないほど別世界だった。

私はもともと電話営業部にいたから、22時や23時は当たり前で、19時に帰るのはなんとも忍びない。

また、早く仕事を覚えようという気持ちもあって、異動後も結局、電話営業部時代と変わらず、天井の自分の頭上の電気だけを灯して、夜遅くまで仕事した

別の理由には、すぐ隣の部にいる、山川本部長の目が気になった。

当時の売上としての会社への貢献度は、外交セールス部は、電話営業部に全くかなわなかった。

だから、「異動になった途端にあいつらと一緒になって、根性無しになったな」なんて思われるのが嫌だった。

実際、山川本部長には、たまに早く帰ろうとして目撃されると、

「あれあれ?? 田久保君、今日は何かあったのか?!早退か???」

なんて茶目っ気たっぷりな嫌味を言われた。

同時に、「別に、外交セールス部のスタイルに合わせる必要ないんだぞ!田久保の実力を見せつけてやれ!」なんて怒ったようにマジに言われたりもした。

その時の山川本部長の気持ちは計り知れないが、自分が育てた部下が他部署で活躍してくれることを願っていたのではなかろうか。

この後、まるで山川本部長や今井次長の期待に応えるかの如く、異動して僅か一ヶ月の間に、私は外交セールス部でトップの成績を収めてしまう

実は、私の成績の背景には、それまで誰も気づく事がなかった盲点があったのだ。

前述の通り、外交セールス部の直販の営業スタイルは、電話営業部のスタイルとまったく違う

その最も違う点は、顧客名簿の存在だ。

電話営業部が電話する名簿は、会社から託される。

その名簿は、もともと会社が打った広告や書籍などからお問合せが入ったり、お客様から届く資料請求のハガキなどで作られている。

つまりそれは、会社が広告費を使って集まったリストで、そのリストにあるのは基本的に、先にお客様側からこちらの商品に興味を持っていただいた方々だ。

その方に、正しく商品を理解し購入していただくために、営業マンが商品知識を身につけ、メリットを電話でご説明する。

だから、成約に至るまでのプロセスは、原則、電話だけで完結する。

もちろん、電話口の営業で成約に至るまでには、大変な努力と技術を要するし、お客様に信頼していただき、きちんとご納得をいただかなければ、やはり商品の購入には至らない。

しかし、先ほども説明したとおり、会社から渡された名簿に載っている方々には、「お客様側から興味を持った」という、ある程度の下地があるため、電話だけで済むのだ。

一方、外交セールス部は、全くゼロの状態から自分でお客様を開拓していかなければならない

営業のスタートラインが違うため、当然、電話営業部に比べて、成約までに多くの時間と労力が必要だ

顧客開拓の方法は色々あるが、例えば早朝から駅前に立ち、通勤時間帯の人々にチラシを配る。

また、そのチラシを持って街中を歩き、ポスティングする。

チラシには担当者の名前が書いてあって、興味を持った方から反響があると、そこから様々なアプローチの段階をいくつも踏んでいく。

他にも、例えばセミナーを開催し、そこに集まった方々にプレゼンテーションを行い、興味を持ってもらう。

そして、最終的には実際に会って、具体的な商品説明をさせてもらうのだ。

この、二つの部門の、全く異なる営業スタイルに、面白い盲点が隠されていた。

この盲点こそ、まるで「仁王様」と「菩薩様」が、私だけにこっそり見せてくれたかのような、面白い世界だった。

(次回へ続く)


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