【第6話】 そこに“答え”はなかった・・・
その試合は、テレビ中継や多くのメディアが集まり、プロレスブームという時代背景もあって、学生の試合でありながら、非常に注目されていた。
学生プロレスラーにとって後楽園ホールとは、テレビで活躍する多くの有名なレスラーたちが名試合を繰り広げた、プロレスの聖地であり、まさに憧れの地、夢の舞台であった。
首の大怪我で療養中の身ながら、まだチャンピオン・ベルトを保持していた私に用意されたのは、大会メインイベントのタイトルマッチ。
あまりに出来過ぎた演出の復帰戦。
それは、自分をふった彼女を見返すには、最高のステージだった。
私は、失恋の落ち込みから自分を救うため、ケガからまだ完治していない体にムチを打って、気が狂ったように練習した。
「後楽園ホールという最高の晴れ舞台で、最高の試合を見せて勝つことで、チャンピオンとして劇的な復帰を果たす」
それだけが生きている支えだった。
その時の自分は、何かの支えが必要だったのだ。
結果は・・・
一部のファンから今も『伝説の名勝負』と呼ばれるその試合は、自分で言うのもなんだが、とても素晴らしい試合だった。
約10分間の死闘の中で、決め技になった「フランケンシュタイナー」という技は、元祖スコットスタイナーが日本で初公開する前に、プロよりも先に本邦初公開したのがこの試合で、当時、実況やメディアたちを非常に驚かせた。
私は、怪我から見事に復帰を果たし、チャンピオンベルトを防衛した。
会場は総立ちとなり、プロレスでは珍しいおひねりが飛び交い(なんと財布ごと投げてきた人もいた)、ものすごい数のフラッシュと大歓声を浴びて、私はまさに、恍惚の状態に浸っていた。
終わった・・・。
会場中の熱気と割れる様な拍手の中で、精神の高揚も最高潮に達していた。
これで、極度の落ち込みから自分を救い、ようやく立ち直ることが出来た、と誰もが思うであろう。
ところが、その数時間後、
まさか自分の人生を根本的に方向づける、今までに無いほどの強烈な葛藤を味わう事になろうとは、夢にも思ってもいなかった。
試合終了後、帰宅の途についた私に襲って来たものは、数ヶ月間の落ち込みをさらに上回るほどの、強烈な、空虚感だった。
私は、今度こそ本当に、心の支えを失ってしまった。
試合に勝ったのに、だ。
あれだけの栄誉と高揚感を味わった後だっただけに、その心の落差は受け入れ難い程の苦しみだった。
そして、この時、やっと気づいたのだ。
何を手に入れても、どんな栄光を掴んでも、
決して満たされることのない自分に。
外にどんなに答えを求めても、
そこには答えがない、ということに。
周囲から与えられた名誉や肩書きや、自分以外の誰かに救いを求めても、
本質的な意味で自分を満たし、癒してくれるものなど、この世にはない、
ということに。
この試合の後から、何か外にある答えを求める旅ではなく、
自分の本質、「本当の自分」を探すための、
私の本当の「心の旅」が始まった……
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