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【第35話】「The key-man」…その鍵穴はどこにある

注:この物語は、私の身に起きた「完全実話」ですが、
プライバシーに配慮し、登場人物や企業名等は原則仮名です

(前回より続き)

ここで、ほんの少し話を遡らせ、北野本部長が来てまだ数ヶ月の頃の、私が最も業績を伸ばしていた時代に話を戻そう。

なぜなら、私の辞職と、その後の展開に深く関与することになった、ある鍵を握る人物を登場させなければならないからだ。

当時の外交セールス事業部は、北野本部長の手腕で部内全体が活性化し、かなり積極的に規模を拡大していた。

売上のレベルも、電話営業部と比較されて肩身の狭い思いをしていた時代からは、考えられない高い目標数値を掲げ、それも確実に達成していった。

リクルートも盛んに行われ、従業員の数もみるみる膨れ上がった。

そして、それまでは電話営業部と同じフロアーで、その片隅に席を置いていただけの外交セールス事業部は、同じビルの広い別フロアーを専用にあてがわれ、部内の営業マンの士気も絶頂期を迎えていた。

この頃、私のお客様の一人で、もともとユーザーとして代理店を希望していた東山さんというお客様から、代理店ではなく、本部に入社して働きたい、という希望があった。

東山さんは、某有名市立大学を卒業した後、日本人では知らない人はいない、某大手食品メーカーに入社。

あるメジャー商品において、国内シェアダントツ1位のライバル企業から、そのシェアを大幅に奪った、という実績を持つ、若手エリート出世頭の人物だった。

私より3つ年上で、大企業幹部という将来を約束された、誰もがうらやむその立場を捨て、私の会社で扱う能力開発の商品に惚れ込み、このB商品課に入って来た

大企業同士の熾烈なシェア争いに身を投じ、その第一線で実績を上げてきた彼は、やはり入社当初から、他の営業マンとは違った

彼は、私自身のお客様でもあったので、歓迎の意味を込め、入社直後に飲みに誘ったのだが、その場で私にいきなり喰ってかかってきた。

「あの目標数字はなんですか!あんな目標じゃ、A商品課を抜かすなんてできないですよ!」

そう言って彼が出した目標数字は、私が外交セールス部に異動した直後に出した、あの金字塔と呼ばれた数字の3倍

確かにその頃には、トップ営業マンの数名は、金字塔だったその数字も何度か達成し、中には2倍にまで手が届く数字を出すこともあったが、当然、容易にやってのけるようなものではない

まして、3倍の数字などそう簡単にいくか、と一瞬呆れた。

しかし、「何も内情を知らずに生意気を言うな」と言いたい気持ちはあったものの、彼の言葉にも一理あると思い直し、新人の熱い気持ちに水を差し、その可能性にフタをするのも嫌で、結局放任した

とにかく熱い男だった。

翌日、誰も見た事のない、その大胆な目標数字をホワイトボードに書き込んだのも、彼自身だった。

この東山さんこそ、私の新たな運命の扉を開けさせる、重要な鍵を握る人物になろうとは、まさか、この時は思いもよらなかった

彼の存在は、良い意味でも悪い意味でも、外交セールス事業部に波紋を広げた。

彼の直属の上司としての責任者の立場で、現実離れした目標数字を掲げさせている罪悪感もあったが、他の課の課長達も達観していて、黙認してくれていた。

他の営業マンにとっては、いい意味で刺激を与えたのも事実だった。

彼は、周囲が驚くほどにアクティブな営業活動と必死の努力を重ね、私も出来る限り彼をバックアップした。

しかし、その月に彼が達成した数字は、確かに新人としては大変評価できるものではあったが、彼が果敢に掲げた目標には、遠く及ばなかった。

結局、最終的には、彼は苦い現実を味わったのだが、その結果は全く責められるものではなく、

固定概念化していた部の目標に対し、豪胆な数字を掲げて一石を投じた東山さんの功績は、大いに評価される部分もあった。

また、ある意味では、外交セールス事業部の営業マン全員を敵に回すような過激なその目標設定は、一流企業から来たエリート営業マンに対しての心理的反発心も手伝って、

地道な努力と足で稼ぐ営業を積み上げて来た、当時の私たちの「負けてたまるか」という営業マン魂を呼び覚ました

そして、その東山さんのダイナミックさに、即座に反応したのが北野本部長だった。

北野本部長は、自身が純粋さとダイナミックさを併せ持ったような人だったので、そういう自分と同じ様な側面を持った人には、好意を感じたのだろうと思う。

北野本部長は、私と東山さんが特にお気に入りだった。

「田久保と東山は最強じゃな」とよく言っていた。

東山さんは、その後、現実を突きつけられつつも、徐々に私の営業スタイルに強く賛同するようになり、実直に業績を上げる様になっていった。

そして次第に、B商品課のNo.2の実力者となった。

しかし、東山さんはどちらかというと、もともと誰かの下にいて上司をサポートするタイプではなかった。

その彼の性質を見抜いてか、新規に立ち上げた企業用の教材開発及び販売部門で、北野本部長の右腕として、事実上の責任者に抜擢された。

この頃は、東山さんの私に対する信頼は絶対的なものがあった。

また私も、彼のダイナミックで破天荒で、しかし、結果に対する貪欲なまでの精神力とその実力を認め、互いが互いに認めあえる、素晴らしい間柄になっていた。

だから、北野本部長の力になれるのであれば…という気持ちもあって、この話が来た時には、喜んでB商品課から彼を手放した。

また余談だが、この時期と前後して、私自身もB商品課の責任者と同時に、新たに開発された女性向けのヒーリング教材販売部署の責任者も兼任することになり、年下の女性ばかりを何人も部下に持ったりもした。

私と東山さんは、外交セールス事業部の中でも、特に大きく北野本部長から影響を受け、感化された人間だった。

北野本部長に中心帰一する二人の絆は深く、またその深い絆故に、私たち二人は、運命という荒波に、大きく翻弄されていくことになる。

(次回へ続く)


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