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【第13話】夜明け前の漆黒の闇
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プライバシーに配慮し、登場人物や企業名等は原則仮名です
部屋に積まれた数百枚のチラシ・・・
能力開発教材の代理店販売権利を買ったはいいが、営業など、まともにやった事がない。
担当者に相談したら「駅前でチラシを配るといい」と言われて、ほどなくチラシが送られて来たのだ。
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チラシの入ったダンボールを見て見ぬふりをして、出来ない言い訳ばかりをしていた。
その能力開発教材そのものには惚れていたし、なんとかこれを販売して生計を立てたい、と思っていたが、
実際に生活のための収入源は、相変わらず工事現場のバイトに頼らざるを得なかった。
お正月休みにあった親戚からも、今の自分の状態を心配して色々と言ってくれるのだが、
「誰も自分を分かっちゃくれない」
と心を閉ざした。
しかし一方では、「このままでは、今の彼女を幸せにしてあげることも出来ない」という焦りも出て来た。
自分の心が作り上げた妄想に侵され、真実が見えず、周囲で自分を心配してくれる人は、全て自分に無言のプレッシャーを与える人に感じた。
生活の安定のため、結婚のため、就職して、あの嫌なサラリーマン生活に戻らなくてはいけないのだろうか。
自分の成功への自信を保ち続けるには、すでに時が経ち過ぎていた。
この頃、私は毎日「日記」をつけていたので、この時期の心の葛藤も、そこに克明に記されている。
そこに、こんな事が書かれていた。
* * *
「確か、無気力でやる気がなくて、決断力がなくて、
そんな自分を変えたくて、研修を受けたり、
精神世界や自己啓発に金と時間を費やし、
成功を信じて会社を辞め、もう2年近くになる訳だが、
良くなるどころか、状況は悪くさえなっている。
確かに色々と勉強したけど、全く行動に移していない。
全てはそこに原因がある。
行動力を付けたいと、もう何年も感じているのに、
結局ずっとそのままだ。
すぐに怠け、頭で考えるだけで、口だけは達者で、
全然行動に移さないから、何も起こらない。
俺という人間は何がしたいんだろうと、ずっと考えていた。
自分が本当に夢中になれるものは何だろう?
気がつくと、そういうものが俺にはなかった。
俺は一体、どうなってしまうんだろう。
俺にはこの先、なにが待っているというのだ。
今、俺は、何も無い男になってしまった……」
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* * *
自分で行動できないなら、結局、自分を管理してくれる「会社」という組織に入るしか道はない。
管理されるのが嫌で会社を辞めたのだから、すぐにまた嫌になり、辞めてしまうのではないだろうか。
しかし、既に自分に選択の余地は残されていなかった。
彼女に、「独立して成功する夢を諦めて、就職先を探す」と話したら喜ばれた。
悔しい気持ちが湧き上がり、何か言葉を探したが、今の自分には反論できる要素は何も無い。
完璧に、自分自身への敗北だった。
この時、夜明け前の漆黒の闇の中にいた自分に、気づくことは無かった。
工事現場の帰り道、諦めにも似た複雑な気持ちで、就職情報誌を買い、家に帰ってページをめくった。
まさか、その1冊の雑誌の小さな求人広告に、運命的な出逢いが自分を待っているとは知らず・・・
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