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オーバードーズ

あれは私が20代前半だった頃。
当時の私は重度のうつ病とパニック発作を起こしており、学校に行くどころか外に出ることすらままならない状態だった。
うつ病の症状の一つに貧乏症という症状がある。
実際はそんなに貧乏ではないのに、極端に自分は貧乏だと思ってしまう症状のことだ。
当時の私も貧乏症だった。
大学生だから金が無い。うつ病だから就職活動ができない。そもそもこんな精神疾患になったらまともな会社で働けない。
今も金がないなら将来も金がない。
一生金がない。金がないならこの社会で生きていけない。社会から消えてしまいたい。
というサイクルに陥ってしまっていた。
当時私が通っていた病院は簡単に薬を出してくれるところだった。
ちょっと「不眠なんです」と言えば強い睡眠導入剤をくれたし、ちょっと「うつっぽいんです」と言えば強い抗うつ薬をくれた。
私はそれらの薬を強いお酒と一緒に飲むことにハマっていた。

オーバードーズをすると不安が一瞬で消えてなくなった。
頭の中が突然楽しくなった。
自分は社会から隔絶された人間なんだと思え、気分が高揚し、突然笑い始めた。
とにかく自分は社会とは違うんだ。だから社会の不安なんて自分には関係ないんだと思えたのだ。

記憶は毎回そこで終わっている。

気づくと翌日の昼頃で、猛烈な頭痛と猛烈な吐き気に襲われる。
トイレに突入し、数時間はげーげー吐いている。
頭痛は収まらない。
昨日は吹き飛んでいた不安が体の中に充満していき、次第に猛烈なうつ状態へと突入していく。
トイレから出ると、部屋の中が散らかっていることに気づく。
きっと昨日オーバードーズをして気が強くなった自分が独りで暴れたのだろうということが想像できる。
なんでこんなことしたんだろうという罪悪感がこみ上げてきて、さらにうつ状態になり、不安になる。
その日の夜、頭痛が治まった頃に、不安をかき消すためもう一度オーバードーズを行う。

こんなことを約半年も続けていた。
経験者として言わせてもらうが、オーバードーズはほんとにキツい。いいことなんて一つもない。
あのなんとも言えない頭痛や吐き気をもう一度味わいたいとは思わない。
オーバードーズを止めやすい方法は一つ。
病院をかえることだろう。
私の場合は病院をかえた。
薬をあまり処方しない病院にしたのだ。
そして入院もした。
入院をすればオーバードーズなんてできやしない。
そうしてオーバードーズから脱却した。
それでも入院と通院合わせて約一年以上は病院の世話になっただろうか。

ただやめていま、やめてよかったと思う。
オーバードーズ特有の頭痛や吐き気はもう懲り懲りだ。
未だに重いうつ病だが、オーバードーズはもうしたくない。
昨今はtiktokなどでオーバードーズ配信を行う子もいるらしいが、ほんとにおすすめしない。
あれだけはほんとに意味がなかったなと、今でも思う。

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