僕が中学生の時、目の前で同級生(男子)が痴漢されたという話
僕が中学生の時、電車の中で同級生の男の子がおっさんに痴漢をされた。
あれは、受験日当日の朝だ。
今でも、僕は時々であるが、この出来事を思い出す。
被害にあったのは同級生の男子、そうだな、本名は書けないから仮にB君としておく。
B君というのはとてもおもしろいやつで、顔も整っていて、家もそれなりに裕福で、おしゃれで、気の利いたやつでスポーツもできて、塾にも行って勉強もできるやつだった。
女子にはもちろん人気だったが、同性の男子からも信頼を得ているやつだった。
対して僕は映画マニアでミリタリーオタクで服は親が買ってきたUNIQLOを着ているような子だった(当時のUNIQLOは今みたいなおしゃれさんも着るブランドではなかった)。
二人は対象的だったので、休憩時間に一緒に遊ぶとか放課後に一緒に帰るみたいな付き合いは一切なかった。
試験勉強のときや体育の時間に必要なことを必要なだけ話すくらいの間柄だった。
だけど、B君は隠れミリオタだったので、いわゆる陽キャなやつが周りにいないときは僕と銃器の話をよくした。
僕はB君とのその距離感が心地よかった。
お互い必要以上に仲良くならず、共通の趣味をこっそり話す仲も悪いものじゃない。
中学三年生の後期にもなると、よほどののんびり屋さんかバカじゃない限り全受験生は受験モードに移行する。
僕とB君は同じ高校を受ける予定だったので、必然的にやりとりする回数が増えた。
受験日当日、僕とB君は予め待ち合わせた場所に集合して、同じ電車に乗って受験会場の高校に向かった。
電車の中では僕ら以外にも同級生の男子が何人かいて、皆参考書とか単語帳を小声で音読していた。
僕の目の前にB君が立っていて、時々「やべぇー、緊張する〜」とか、まあ、中学生男子のありきたりな会話をした。
受験生らしい他愛のない時間が過ぎていたのだが、B君が突然変な顔をした。
それはほんとに変な顔としか表現できなかった。
唇を尖らせたような、ニンマリと笑ったような顔だった。
僕は、B君が変な顔をしてこちらの緊張を和らげているのかと思った。
B君はそういうユーモアを持ち合わせている子だったからだ。
B君の変顔はすぐに終わり、僕らは再び単語帳を音読する作業に戻った。
電車を降りて、目的地の高校まで歩いて向かう途中、B君は僕にこっそりこんなことを打ち明けてきた。
「さっき、おっさんにお尻触られた」
僕はきょとんとした。
B君は冗談を言っているのかなと思った。
B君の顔を見るに、マジだった。
僕は気づいた。
さっきのB君の変顔は、僕を和ませるための変顔じゃなくて、お尻を触られて驚いた顔だったのだと。
突然お尻を触られて、恐怖と緊張で顔が引きつって、あんな顔になったのだと悟った。
B君はそれ以上何も言わなかった。
僕もなんて言っていいかわからなかった。
憤慨すれば良いのか、気の利いたジョークでも言えば良かったのか。
お互い何も言わず、高校にたどり着き受験に臨んだ。
B君は受験に失敗した。
僕は時々この出来事を思い出してはなんともいえない気分になる。
あの時僕はどうするべきだったんだろう。
僕の目の前で友人が痴漢にあっていたのに、気づいてあげることもできなかった。
世間でこういう事件、程度の差はあれど性的な暴力の事件があると必ず話題に上がるのが被害者側の対応だ。
「なぜ声を上げなかったのか」
「なぜ抵抗しなかったのか」
「そもそも無防備だったんじゃないか」
しかし、それは突然起こるのだ。
被害者側に責任はない。
B君は普通の男子中学生だった。受験日当日で明らかに電車内で受験勉強をしていた。
それなのに痴漢にあったのだ。
いや、仮にB君がお尻を強調するズボンを履いていたとしても痴漢にあっていいわけじゃない。
夜中に眠れなかったので、ちょいと昔話を文章にしてみた。
だが、これは言い切れるが、悪いことが起きた時に「悪いことされる方も問題があったよね」みたいな意見があるが、それは間違い。
傷つけたほうが悪いに決まっている。