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【小説】 彼方のサンマ 【ショートショート】

 半分人間の私はロボ部長に言われた通り、魚の中でも特級に美味いと言われている「サンマ」を求め、HOKKAIDOへ旅立つこととなった。
 羽田区に在る廃ビル第三ターミナル。テレポート待ちの行列に並んでいると、ロボ部長が私の肩をポンと叩いた。
 労いの言葉でも頂けるのだろうかと思いきや、ロボ部長はこんな追加のワガママを要求して来た。

「ピポガガガ! ピーポガ! ガガピピポ!」
「はいはい。分かりましたよ……ついでに買って来ればいいんでしょ?」
「ピガピガポー!」

 そう言って、ロボ部長はゴキゲンな様子で去って行った。「白い恋人」も買って来いとのことだった。
 ロボ部長は呑気でいい。死ぬことの心配もなければ、かと言って家族を持っている訳でもない。ロボに成り切る覚悟もなく、生半可に人間をやっている私など、寿命の束縛に囚われたままいつ来るかもしれない「死」に怯えているというのに、遥か遠い地にサンマを買いに行かされているのだから、どうしようもない。

 テレポートした先の漁港へ着くと、市場ではボス格の荒型ロボが背中から黒煙を吐き出しながら、私と同じ半分人間の「ドレイ」達に檄を飛ばしていた。

「ピガゴロロロロ!! ガガピガーーー!!」

 そんなに怒鳴らなくてもイイではないか……と見ているこちらが心配になるほどドレイを叱りつけていたが、ドレイ達は無心で水揚げされたばかりの魚の入った籠を右に左に忙しなく動かしていた。
 あるドレイがうっかり手元を滑らせ、魚の入った水バケツを盛大に引っ繰り返した。あぁ、やってしまったな。そう思ったのだが、その処罰は私の想像の範疇を越えていた。
 荒型ロボがその巨体を揺らしながらドレイの元へ近寄ると、床にぶちまけられた魚をおいおいと泣きながら撫で始めた。次に、怒りの念が籠もった両目ヘッドライトでドレイを照らすと、怯え切って腰を抜かしているドレイの頭を両手で挟み、そのままブチーン! と首ごと引っこ抜いてしまったのだ。
 市場の隅っこに向かって抜かれた首は放られたが、この衝撃の出来事に立ち止まるドレイは一人もいなかった。彼らにとっては日常茶飯事なのだろう。

 いやはや、とんでもない物を見てしまった。HOKKAIDOは試練の地であり、三級の半分人間やデータに載らない犯罪ロボ達が集まっていると聞かされてはいたが、素行を見る限りどうやら本当らしい。
 さっさとサンマと白い恋人を買い求め、SHUTOへ帰ろうと思った私は荒型ロボを呼び止めるとさっそく交渉に入った。

「そのサンマを一ケース、くれないか? もちろん代金は払う」
「ピガーガガゴ?」
「そうだな。ケースあたり五千ドルイェンでどうだ? 悪くない条件だと思うのだが、部長が美味いサンマを買って来いとうるさくてね」

 そう。五千ドルイェンと言えばここらで働くドレイ達の一年分の稼ぎに等しい金額だ。きっとこの荒型ロボも大した銭はもらっていないはずだ。
 私は荒型ロボの返事を待つことなく、ケースに手を伸ばす。しかし次の瞬間、視界が揺らいで私は何故か灰色の空を見ていた。

「ガロガガピー!!」

 荒型ロボに、漁師をナメるなと言われている。そして、私の首はどうやら先ほどのドレイ同様、引き抜かれてしまったようである。

「あぁ、サンマが!」

 私の首はポーンと市場の隅へ放り投げられた。このままでは五分と持たずに絶命してしまう。早く、どうにかしなければ。
 そう焦っていると、見慣れた身体が私の眼前を駆け抜けて行った。
 どうやら先ほど首を抜かれたドレイが私の身体に自らの頭部を取り付け、テレポート場へ向かって走り去って行ったようである。

「あ! この身体ドロボー!! 私の身体を返せ!!」

 必死の叫びも虚しく、私の身体はテレポート場へと消えて行った。
 ヤバイ。このままでは確実に絶命する。そう思っていると、一人のドレイが私の首を持ち上げてくれた。
 あぁ、なんとありがたいのだろう。同じ半分人間同士、助け合いと行こうじゃないか。

「すまない。助かるよ」

 そう声を掛けたものの、ドレイは反応を見せない。無表情のまま頭だけの私を抱え、ある場所へ向かって走って行く。
 五秒後に辿り着いた先は、首を抜かれたドレイの身体の前であった。
 私の頭は彼の千切られた首根本にセットされ、たちまち神経回路が繋がり始める。

「今日ハ、大変ニ忙シイ! オマエ、働ク!」
「ハイ! ヨロコビマシテ! 働キマス!」

 サンマ、ハコブ! サンマ、ハコブ! イッパイハコブ、ボス、ウレシイ! オレモ、ウレシイ! サンマ、ハコブ! イッパイ、ハコブ!!

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大枝 岳志
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