所属する企業に「やる意味、いる意味、える意味」を考える。~居心地と惰性の間で悩む31歳女性が考えるべきキャリア④~
こんにちは。株式会社シンシア・ハートで代表取締役をしている堀内猛志(takenoko1220)です。
前回のnoteでは、「『やりやすくてやりたいこと』よりも『やりづらいけどやるべきこと』に目を向ける~居心地と惰性の間で悩む31歳女性が考えるべきキャリア③~」ということについて書きました。
モデルとなっている「愛」というペルソナの理解のために、まずはこちらのnoteを流し読みしてください。
今回は、愛、または愛に近いペルソナが今の職場に残留するか、転職するかを考えるうえで、その企業に『いる意味』、その仕事を『やる意味』、その報酬を『える意味』について、考え方を解説していきます。愛のペルソナと違う人も、このnoteを読んで自身が所属する企業について考えてみてください。
『役に立つこと』から『意味のあること』への変化
本編に入る前に、まずは『意味の価値』が上がったことについて触れたいと思います。商品市場では、消費活動は『役に立つモノ(コト)』よりも『意味があるモノ(コト)』へ移っています。詳細を知りたい方は、山口周さんの「NEW TYPE ニュータイプの時代」を読んでください。
かいつまんで説明します。山口さんによると「役に立つ」と「意味がある」は以下のように定義されています。
役に立つモノは時間と共にコモディティ化し、どんどん値引き合戦になります。一方で意味があるモノは、選ぶ本人次第では無限に価格を上げ続けられます。例がないとわかりづらいと思うので、山口周さんの記事から引用させていただきます。
この図は、ものすごくわかりやすく整理されています。日本車は世界で一番エンジン車開発の技術がありますので、街中を走る日常車として役に立ちます。安全、高燃費、運転のしやすさなど、役に立つ要素の塊です。トヨタや日産の車に意味を感じている人もいるでしょうが、ほとんどの人が役に立つ要素のみで購入をしていると思います。
一方でフェラーリはどうでしょうか。ドアの開閉の奇抜さ、運転席からの視界の狭さ、時速1,200kmを超えるスピード、など街中を安全に簡単に運転するような機能は皆無です。都内の出勤にフェラーリを使うのは間違いなく止めた方がいいでしょう。しかし、皆がフェラーリに憧れ、価格が数千万円しようが売れます。そこには「素敵!」「かっこいい!」という『意味』があるからです。
「素敵!」「かっこいい!」の基準は一般化できない個人の指標です。よって、適正な価格を決めることはできません。だから欲しい人なら無限にお金を出せるのです。まだフェラーリは良い方です。車としての機能もあるので、運転技術のある人であれば日常車として使えば役にも立ちます。それに対して、フェラーリよりも役に立たないのはポケモンカードです。「遊ぶ」「愛でる」「自慢する」以外の使い方はありません。それでもレアカードは信じられない価格になるものもあり、米国のユーチューバーが2021年に購入したポケモンカードの価格はなんと約5.8億円でギネス記録にもなりました。
労働市場で起きている『意味の価値』の変化
意味が持つ価値について理解してもらえたと思いますが、同じことが労働市場でも起きています。ドラッカー曰く、企業の目的は「顧客の創造」です。組織は事業に従うので、これまでの時代は、顧客を創造するために必要な「役に立つ」人事施策を行えば良かったわけです。
しかし、労働人口不足につき、優秀人材の獲得及び維持のために、企業は単に「役に立つ」だけではなく、「意味がある」人事施策を実施する必要が出てきました。下記の図を見てもらうとわかると思いますが、「役に立つ」だけの施策は定量的で無機質ですが、そこに「意味」を加えると有機的に血の通った施策になると思います。
ただし、本来の目的を理解しないまま時流に乗って人事施策を行っても全く効果はありません。例えば、日本の伝統的企業(Japanese Traditional Company)では、Old typeの管理職が1on1の目的を理解せずに、「俺の時間を奪っているのだから何か有意義なことを話せ」というスタンスで臨んでいるような事象が起きていたりしています。これは世代間ギャップの顕著な事例です。
昭和のモーレツサラリーマンにとって、働くことは必然であり、そこに意味は必要ありませんでした。よって、自分よりも若い世代、特にZ世代のようなNew typeが、仕事に意味を求めることが理解できないのです。本質的な目的を理解していない経営者、管理職によって作られた人事施策には意味が込められていないためスベリます。パーパス、人的資本経営、ダイバーシティなどを標的にして「これ、やる必要あるの?」と言っているOld typeの管理職をイメージしてください。この言葉を言い換えると、「商品市場で顧客を獲得できるような『役に立つコト』なの?」という疑問であり、「労働市場で『意味がある』コトなのではないか?」という理解が全くありません。完全にフォーカスがズレているので会話にならないのです。
役に立たないし、意味もない仕事は「ブルシットジョブ=クソどうでもいい仕事」と言われます。
油断すると、自社の中でも「ブルシットジョブ」は増えているかもしれません。それと同じく、New type向けの施策も意味はあっても役に立たなければ『ブルシットHRアクション』になっているかもしれません。商品市場ではフェラーリのような役に立たなくても意味があるものには高額な値段がつきますが、労働市場では役に立たない人事施策はコストにしかならないのです。
リモートワークを例にとって考えてみましょう。コロナ禍で爆発的に広がったリモートワークですが、「役に立つ(≒顧客を獲得する)」ことを踏まえて設計せずに、「意味がある(≒従業員が満足する)」ことだけを考えて実施すると、生産性が落ちてしまいます。これは全ての人事施策において言えることです。
ブルシットジョブも経営者にとっては根絶やしにしたい仕事ですが、その業務を指示している管理職と、その指示に従っている従業員にとっては必要な業務なので文句は起こりません。経営にとってはコスト増加だけで済みます。コストが増えることを「だけで済む」と言ったのは、ブルシットHRアクションは、コストが増えるだけではなく、それが炎上や従業員の離職にもつながりかねないので、ブルシットジョブよりもはるかにタチが悪いのです。
これは「役に立つ」モノと「意味がある」モノの対象範囲の差から来るものだと考えます。「役に立つ」モノは、大多数の人にとって「役に立つ」モノですが、「意味がある」モノは個人を対象にするモノが多いのです。ポケモンカードの例がまさにそうですね。ある人にとっては非常に意味があることでも、興味のない人にとっては意味がゼロです。これと同じで、意味を求めた人事施策は「全体最適」の施策ではなく「個別最適」になっているケースがあります。商品市場では、意味を感じる人が意味を感じるモノに高額を支払っていても、意味を感じない人にとっては「知ったことではないこと」なのですが、社内と言うエコノミーの中で同じことが起きると意味を感じない人たちは黙っているわけにはいきません。その施策への不満が出たり、不満を社外に拡散してしまったことから炎上が起きたりします。
従業員にとっての「役に立つ」と「意味がある」の整理
前述したように「意味があること」とは、個人にパーソナライズされる要素があるため、実施する側にとっては非常に難しいのです。例えば、対象となる従業員が求める意味が、実施する側の人事や管理職にとっては意味を感じないこともあるでしょうし、従業員ごとに意味の価値が違うのですから、会社全体の施策で従業員全員の「意味作り」をカバーしようとしても無理があります。
従業員にとって、会社に「いる理由」、仕事を「やる理由」、報酬を「える理由」に当てはめて整理してみましょう。それぞれ、「役に立つ」コトと「意味がある」コトに分類した図が以下の通りです。
上図のように、一昔前は「役に立つ」要素だけでよかったのが、現代の労働者には「意味がある」ことが強く求められています。ただし、「意味がある」ことは「役に立つ」ことも同時にカバーできているかを考えることが重要なのは、これまでの解説で理解できたと思います。従業員にとって「役に立つ」コトは『働く必要条件』のみですが、「意味がある」コトは『働く必要十分条件』なのです。
私自身、人事としての活動も行っておりますので、「意味のある」人事施策を実施することの難易度の高さは実感しています。パーソナライズも難易度が高いですが、さらに意味の価値の変化が早いことも難易度の高さの要因です。以下のnoteで企業向けに公開していますが、社内コミュニケーションデザインを考え、従業員の気持ちに寄り添うことを体現していきたいですね。
「いる意味」「やる意味」「える意味」を整理して、『今ココ』にいるべきかを考える
意味を考えることが難しいのは、企業側だけではありません。個人にとっても自分の中にある「大事にしている意味」を見つけることや言語化することは非常に難しいのです。
ここで愛の働き方に話を戻します。愛は、新卒時代から成果を出すことに誠実に向き合い、その成果と姿勢に会社も応えてくれていました。20代はそれでよかったのですが、30代になった愛はこのままでいいのかを考えるようになります。これは、愛の中で「意味」を考えるようになってしまったからです。
愛はまだクリアに言語化できていないため、現職が間違えているかどうかもわかりません。これは世の中にいる人のほとんどがそうだと思います。自分をメタ認知し、自身の中にある意味を言語化する作業は難易度が高いです。よって「なんかモヤモヤする」という状態から抜け出したく、答えを求めて転職活動をするものの、結局答えが自分の中で出せずに、現職残留を決める人が多いのだと思います。
このグラフは過去何度もこちらのnoteで紹介しているものです。転職希望者は年々増えていますが、実際に転職する人は実は増えていません。人の脳は「現状維持」を好みます。モヤモヤがあっても、明確に言語化できないのであれば、転職することをリスクと捉え、現状維持してしまうのでしょう。現状維持そのものが悪いとは思いません。しかし、思考停止した現状維持は止めましょう。あなたの人生です。思考を停止し、キャリアも停止させてしまうのは非常にもったいないです。
まずは、「いる意味」「やる意味」「える意味」を整理しましょう。言語化するために書き出すことは非常に大事です。そしてそれが現職で満たされているのかを検討しましょう。また、転職候補企業では現職で満たされない「意味」を埋められるかを考えましょう。ただし、転職先では、現職ですでに感じられる意味があるのかも同時に確認してください。この視点がないために転職を失敗させてしまう人は数多くいます。
「いる意味」「やる意味」「える意味」、全ての意味を感じられている人は最高ですね。ただし、それでも思考は止めないでください。なぜならあなたの中の意味の価値も、社会の中での意味の価値も変化するからです。すべての意味を満たしていたはずの環境に対して、時間と共に意味を感じられなくなることはよくある話です。しかし、変化することを前提に考えられていない人は、昔もっていた意味の価値に固執してしまいます。「天職に出会えた!」と思っていた人にとって環境を変化させることは勇気がいるでしょう。しかし、あなたのいる場所は常に「今の」「天職候補」であり、変わらないことなどないのです。
終わりに
いかがでしたでしょうか。31歳女性の愛をペルソナとしてキャリアの解説を行ってきましたが、愛のペルソナとは全く違う人にも当てはまるところは多々あったのではないでしょうか。自分にとって最大に役に立つはずの大手企業を早々に退職し、スタートアップへの転職を選ぶ人が増えています。これは若い人ほど自律しているため「自分の中の意味」を言語化することに長けており、今の環境を違うと判断することが早いからです。Z世代の自律については下記のnoteをご確認ください。
悩ましいのは30歳~40代半ばのY世代の人たちではないでしょうか。それ以上の年齢の方は「役に立つ」モノを迷わずに選ぶ傾向にあるので、現職維持しか考えていないでしょう。しかし、年齢的にも精神的にもまだまだ成長できるY世代はまさに過渡期の世代です。キャリアに悩むことは悪いことではありません。「いい歳して、、、」なんて言う人もいますが、大丈夫です。何歳になろうが迷います。「自分の中の意味は死ぬまで変化し続ける」と思って、自身のキャリアにしっかり向き合ってください。
愛のストーリーを読んで他人ごとではないと思った人、自分のキャリアについて相談に乗って欲しいという人は下記よりご連絡ください。
それでは今日も素敵な一日を!
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