百年先の誰かへ
柴崎友香さんの新刊「百年と一日」の著者近影に私が撮ったポートレートを使って頂きました。とても嬉しいです。
文庫本の表紙をめくったところにある著者のポートレートをかねてからやりたいと思っていました。そしてコロナ禍にその願いが叶いました。柴崎友香さんの「千の扉」という作品です。
週刊誌や月刊誌とは違い、文庫本は読みつがれていく限り、本屋さんの棚にずっとあります。10年後、20年後、もしかしたら100年後の誰かがその本を手に取り、著者のポートレートを観て、作品の世界や作者自身のこと、作品が書かれた時代に思いを馳せることでしょう。いまの私達が太宰や漱石の作品を読み、彼らのポートレートを観るように。作者のイメージを決めてしまうタイムマシーンのような役割もあるので、著者のポートレートは重要だと思っています。
今回の新刊に使って頂いた写真はモノクロフィルムで撮り、暗室でプリントしました。あくまで私の例ですが、フィルム撮影から自分で暗室に入りプリントを仕上げるというアナログの手法が私の身体にはよく馴染み、得意とするもので、そのプロセスを経た写真を差し出すというのが私にとって礼を尽くす最上の所作でした。文庫本の写真ですのでとても小さなものですが、写真家の想いや手数は伝わってしまいます。未来の読者が作品同様、どんな想いで写真を観てくれるのか、楽しみです。
「百年と一日」。読了後、色々な想いが去来します。人の世の儚さ、寄る辺の無さ、無常。でもそこにはちゃんと光が、希望があるのです。これは私の来し方に照らし合わせた感想です。読者それぞれの感じ方があるでしょう。ぜひ、手に取ってみて下さい。
個人的には郷里や青春の地、大阪の仲間、元同僚、お世話になった方々に気付いてもらえたら面白いと思っています。私が写真をやっていることを知らない人がたくさんいますから。