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Suzuki Swift 小さな車、大きな野望

スズキにはこんな有名なコピペがあるのをご存知だろうか

スズキの営業に「なんか内装が安っぽい」つったら
「安っぽいんじゃなくて安いんです」って言われたので
それもそうかと納得して判子押した。(詠み人知らず)

思わず笑ってしまうが、彼らは実に実直な企業だ。スイフトについて語る前に、ちょっとスズキについて語ろう。

スズキがワーゲンから学んだ働き方改革

さて、そんな実直なクルマをつくるスズキ。実は彼らの作り方は実にクレバーであり、そこにはフォルクスワーゲンの思想が流れている。

例えばスズキのクルマを2世代3世代と並べてよく見ると、例えばドアノブやエアコンルーバーなど、随所にわたり世代間で同じ部品が使われていることに気が付くと思う。これがスズキがワーゲンから学んだ開発思想だ。

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あなたの仕事に例えてみよう。上司に何度も作り直しを命じられ、計算ミスや誤字を観直し、何時間もかけて似たような資料を複数書いた経験はないだろうか?もしそれが同じ資料で、上司と部長と役員まですべて確認が済むとしたら…あなたの執筆労力が減る。部品で言えば数千人の開発工数が減る。そしてその部品は、何世代にも渡って世界中のユーザーが使い込んでも問題ないという実績もつく。

小さな会社が大きな会社と戦うために、限られた人員に無駄な仕事をさせない。スズキには何十年も前から、ドイツ流の働き方改革の発想が根付いているのだ。

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スイフトの功績

実はスズキの普通車が爆発的に売れるようになったのは、先代2台目スイフトがその転換点だった。開発陣を当時交流のあった欧州の某社へ交換留学のような形で派遣し、その血と文化を宿したのがこのスイフトにあたる。

浜松に本社を置く軽自動車の会社が、欧州に人員派遣してグローバル製品を作る。

自動車メーカーの個性とは「安く・頑丈で・不良なし」という土台の上に、なにを置くか?である。スズキはその思想を欧州に学び、軽自動車のボアアップ版であったスイフトを生まれ変わらせた。

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乗り味で言えば、とにかく元気だ。まずアクセルを踏むとドンっと前に踏み込む。おとなしいショコラのデザインとは違い、原付バイクのような軽さがある。

ハンドルには緩みがなくスパッと切れ、ロングコーナーでもよく粘る足と相まってハイスピードでコーナーに突っ込みたくなる。ただのオートマなのに、首都高で乗っているとゴーカートに乗っているような楽しさがある。
一方で直進安定性は欠ける。

たぶんこれは、学んだ国が異なるのだと思う。日本車はドイツ車に近い特性をよしとするが、このクルマはもう少しラテンの血がある。

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この長く見えるホイールベースだが、実は結構クイック。長い距離よりも、都心部や近隣を少し走るだけでも楽しい、そんな欧州の雰囲気がある。国で例えるとイタリア車のような元気な雰囲気。

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垂直針に、220km/hメーター。おわかりいただけただろうか?このクルマは伊達ではないのである。

スズキの独特なサービスネットワークとキャリア開発

メーカーが全国津々浦々の販売店を案内する、という体制は実は珍しい。販売会社というのはメーカーとは別資本が大半で、看板だけの別会社だ。

自動車で引越時にハガキを出せば、近隣店舗をご案内して引き継ぐ…というきめ細かいサービスを行っているのはスズキくらいだろう。これが何故できるのか?その答えはスズキのキャリア開発にある。

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スズキに文系大学卒で入社すると2つの道がある。一つは経理や財務などを通じたコーポレートの道。もう一つは販売部門として国内販売店へ出向して営業マンとして過ごす道。後者の知人は居ないので推測だが、後者は管理職以降になるまで、浜松本社の地を踏むことは殆どないのではなかろうか。実際、鈴木修社長の本にも、現地販売会社で家族をつくった社員が一定数居るという話を書いておられた。

このようなキャリアプランを持つ自動車会社は稀有で、会社によっては役職定年後の片道出向でしか販売会社に行かない社もある。そうなれば人員の交流は稀だ。スズキは本社と販売会社の人的な距離が近く、ここまで綿密なサポート網を構築できているのだと思う。

一方でスズキは東欧やインドで強烈なシェアを握る。人口が14億人いるインドでシェア40%。彼らは決して小さい会社ではない。浜松の企業が作る小さな車は、大きな野望を秘めている。



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水と月
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