会社にデザインへの投資をしてもらうため、インハウスデザイナーができること。
こんにちは、アタラシといいます。クラウドワークスの執行役員として、デザイン、コーポレートブランディング、広報の組織を見ています。
事業会社のインハウスデザイナーのみなさん、こんなこと思ったことないですか。
いやーほんと、みなさんいつもお疲れさまです。
ここ数年で、多くの事業会社がデザインに投資するようになってきていますが、まだ当たり前にはなっていません。
なぜ多くのデザイナーたちが「うちの会社はデザインへの投資が不十分だ」と感じる状況になってしまっているのでしょうか。
なぜ多くの決済者たちは、デザインへ投資できていないのでしょうか。
私が思うに、その理由はシンプルなものです。
実は、偉い人にデザインを理解してもらう必要はない。
私がクラウドワークスでデザイン組織を立ち上げてから、もうすぐ4年になります。
変わらず、ずっと重要なテーマであり続けているのが、会社におけるデザインへの投資についてです。予算をとるときや、費用の説明をするときは、今でも毎度「説明が難しいなあ・・・」と悩んでいます。
デザイン組織の立ち上げ当初、「デザインへの投資を十分におこえるようにするには、この方法しかない!」と思っていたことがあります。
それは、自分が決済者側にまわることです。自分が決済する側になれば、誰にも説明しなくていいし、超ラクじゃんと思っていました。
でも、ぜんぜん勘違いでした。ぐぬぬです。
執行役員になり1年が経ちますが、誰にも説明することなく使えるお金なんてありませんでした。
ある程度の決裁権限は持っていますが、だからといって、お金を自由に使えるというわけではありません。執行役員として説明責任があるからです。どんな費用であろうと、それがどんな効果を期待して使うお金なのか説明できる必要があるのです。
そして、自分が重い説明責任を持ったことで、気づけたことがあります。
決済者は、デザインに理解がないからお金をかけてくれないのではなく、投資対効果がわからないからお金をかけていいか判断できないだけだった、ということです。デザインに理解があるかないか、というデザインリテラシーの問題ではなかったのです。
非デザイナーにとっては、とにかくデザイナーの仕事というのはよくわからないものです。
何かのデザインを完遂させるまでに、どんな人材や専門性が必要で、どのくらい考慮すべきことがあり、どんなプロセスがあり、どんな作業があり、どのくらい時間や手間がかかるものなのか、わからない。
普通に考えたら、デザインに投資してもらうには、決済者にこうしたデザインの謎を説明し、理解してもらう必要があるように思えます。
たしかに、デザインに理解がある決済者なら、「このツールを導入したい」「こんなスキルの人を採用したい」「サービスのUXを刷新したい」と伝えれば、効果を察して投資してくれることもあるのかもしれません。そういう意味では、デザインに理解のある決済者がいたほうが、話が早いでしょう。
しかし実際は、決済者が投資するかどうかを判断するうえでは、デザインの理解は重要ではありません。
デザインに限らず、お金をかけるかどうかの判断は、投資対効果があるかないかがすべてだからです。逆に言えば、デザインに理解があろうがなかろうが、投資対効果さえ期待できれば、決済者からGOが出る可能性は高くなります。
ここで、冒頭の問いに戻ります。
なぜ多くのデザイナーたちが「うちの会社はデザインへの投資が不十分だ」と感じる状況になってしまっているのでしょうか。なぜ多くの決済者たちは、デザインへ投資できていないのでしょうか。
私が思うに、この問いに対する答えは、デザイナーが投資対効果を説明していないからです。
会社がデザインに投資していなのは、ひとえに、デザイナー側に原因がある。こうとらえたほうが、いい未来がデザインできると思っています。
投資対効果を、事実を用いて説明し、投資を引き出そう。
では、決済者へは、どうやって説明をすればよいのでしょうか。
説明の構造はとてもシンプルです。
投資対効果とは、ざっくり言えば、使うお金に見合う結果が得られるかどうか、という意味です。効果の定義や、効果を測定する期間にもよりますが、基本的には、お金を使うときは、使うお金以上の価値を生み出せなければ、使い方として失敗、使うお金以上の価値を生み出せれば成功です。なので、上記の3が判明すれば、決済者は判断ができます。
また、説明をするときは、とにかく事実をもとにすることが大事です。以下の2パターンのどっちかでやるのがいいかなと思っています。
A. 数字や他社事例など、すでに存在している何かしらの事実を使って説明する
たとえば、新しいデザインツールを導入したいとき。
「導入させてください、デザインでは当たり前なんです。デザイン効率も上がるはずです。他社でも当たり前です」
まずはいったん、こんな感じでお願いしてみます。デザイナーに相当な信用があれば、このくらいの説明でお願いが通るでしょう。
無理な場合は、このツールを入れることでコスト削減なり生産性向上なりが期待できることを数字で説明していきましょう。
もし使える数字がどうしても見当たらない場合は、まず判断するための数字を集めさせてもらえるよう、お願いしてみるとよいと思います。その際も、なるべく事実をもとに説明していきましょう。
B. お金より先に小さく時間を投資して事実をつくり出し、その事実をもって説明する
Aのような感じで説明することが難しいケースもあります。
たとえば、ユーザーインタビューやユーザビリティテストなどの定性調査。
デザイナー的にはやってみたくても、デザイン作業や開発作業をとめて、インタビューや分析に時間をそれなりに使うことになるので、PMやPOは「うーん、それより作ってリリースしちゃったほうがデータ見れるし、よくね?開発計画を2週間も遅らせてまで定性調査やっても、2週間かけた以上のリターンがあるかどうかわかんないじゃん」となりがちです。
これはこれで、正しいジャッジだと思います。PMやPOは、責任をもってプロダクトを前に進める判断を下したまでです。
でも、うまく説明はできなくとも、デザイナーとしては有益なはずだと信じているからこそやりたいわけです。
そういうときは、とにかくいったん小さく時間を投資します。お金ではなく、時間を投資です。なんとか時間をつくって、小さくやってみて、小さく結果を得る。その結果をもって、本格的な投資へとつなげるイメージです。上記の例2に近い考え方ですね。
ユーザーインタビューであれば、志を同じくする仲間を2、3人集めて、インタビューを勝手にやっちゃいましょう。インタビュー相手は、友達とか、社内の人でもよいでしょう。時間は、なんとか捻出(あえて具体例は書きません)。そして、得られた分析結果をチームにフィードバックします。その分析結果により仮説の精度があがるなど好ましい変化が起きれば、その事実をもって、事業責任者や、PM、POが、次からはインタビューに時間やお金を投資する判断をくだしてくれるかもしれません。
もちろん、せっかく時間を投資したとしても、好ましい結果につながらない場合も当然あります。そのときは「好ましい結果にならないものに大きく投資しなくてよかった」ということになるし、チャレンジしたことで質の良い内省もできるので、いいことづくしです。
(私だったら、良い結果が出るまで、しばらくは粘って時間を投資し続けちゃうかもです)
まとめ
説明するのはめんどくさいところもありますが、個人的には、説明をがんばるだけでお金を投資してもらえて、結果としていいデザインがユーザーに届けられたり、サービスの成長がつくれるのだとしたら、説明なんて安いものだと思います。
できれば説明は、マネージャーなど、デザイン組織のリーダーにがんばってほしいですね。このへんを突破してくれるマネージャーがいる会社は、ある程度はデザイナーが生きやすい会社と言えそうです。
もしそういうマネージャーがいなければ、もうこれは腹をくくって、デザイナーが自ら説明をがんばりましょう。
あと、これを言ったら元も子もないのですが、時間を割いて説明しなきゃデザインへ投資してくれない会社なんて、辞めてしまうというのも手ではあります。人生の時間は有限ですし、がんばってもどうにもできないのであれば、スパッと辞める。つくっているサービスのユーザーに、心の中でごめんなさいをしながら。
ただ、個人的な願いとしては、辞める決断をする前に、デザインの投資対効果の説明をいったん、がんばってみてほしいです。
説明をする力は、広義でのデザイン力と言えます。いいデザインをするためには、こうした、デザインするための環境をデザインする力も、非常に重要だと思っています。