デザイン担当の執行役員に就任したので、会社の文化を醸成したいなと思っている話。
この記事は、2019-05-20に執筆されたものです
2019/05/01付で、クラウドワークスの「デザイン担当 執行役員」に就任しました、アタラシです。
私は長らく、広告業界でコピーライターとして生きてきました。コピーライターとは、キャッチコピーなど、言葉を駆使して人を動機づけする仕事です。とてもやりがいのある仕事だったし、今でも自分のことをコピーライターだと思っています。
そんな私が、なぜITベンチャーの、しかもデザイン担当の、執行役員に就任することになったのか。どんなことをテーマに動いていくのか。
振り返りもかねてちょっと経緯をまとめてみたいのと、気をぬくとダラけてしまう自分のためにやりたいことを公言してしまおう、という目的で、この記事を書いてみます。
広告業界にいたら、できないことがある。
私が思春期と青年期を過ごした90年代〜00年代は、まだマスメディアが最強の時代。世の中へ何か新しいものが登場するとき、そこにはいつも広告の力が効いていました。そんな広告の世界にあこがれて、紆余曲折を経ながらコピーライターの職に就いたのが27歳のとき。広告をつくる仕事は、すごく好きでした。例えるなら、運動会の最終種目、クラス対抗リレーのアンカーです。超花形。
ただ、広告をつくる仕事は、最終的には「何かを売る仕事」であり、「そもそも何をつくるか、そもそも何のためにつくるか、そもそもどんな既成概念を変えにいくのか」みたいなところには入り込みづらい現実がありました。私のようなフツーのコピーライターでは、特に。それを寂しく思っていた私は、思い切ってベンチャー企業に転職することに。35歳のときです。
デザインしたことない35歳が、デザイン組織のマネージャーに。
クラウドワークスでは、デザインマネージャーとしてデザイン組織を立ち上げる機会にめぐまれました。2016年末のことです。
当時は、社内ではまだデザインのことを、見た目をかっこよくする仕事だと思っている人も多かったし、また私自身も、広告業界にいたときの認識がアップデートされないまま、単にコミュニケーションの手段としてしかデザインを捉えることができていませんでした。
なので、初めて「誰のためのデザイン?」や「融けるデザイン」を読んだときは、めちゃくちゃ興奮しました。プロダクトデザインってこんなにもおもしろいのかと。その魅力に目覚めるのに、時間はかからなかった。
立ち上げメンバーとギャーギャー言い合いながら、「プロダクトデザインとは何か、UXデザインとは何か」などなど、当たり前のことをイチから勉強する日々。マネジメントもデザインも手探りながら、確実に前に進められている感覚がありました。
そうこうしているうちに、あることに気づきます。それは、「プロダクトデザインの最前線に自分は立たないほうがいいな」ということでした。
建物というものは、いい土台があるからこそ建てられる。でも土台がぐらぐらだと、上の建物がいくら強固でも、その建物は安定しない。じゃあ、建物を建てる人と、土台を整備する人を分けようと。デザイナーは建物をなんとかして、マネージャーは土台をなんとかする。マネージャーは、デザインには直接的に関わることをせず、デザイナーが自由にデザインできる環境を整備することに特化して動く。そんなことを決めたのでした。
2年でどんな変化が起こせたのか。
そして今。デザインマネージャーとして動き出してから、2年ほどが経ちました。起こった変化をザッと書くとこんな感じです。
・デザイナー立ち位置が、下請けお化粧係から、プロダクトマネージャーやエンジニアと並列の関係になれた。
(参考記事:ゼロからデザイン文化をつくるために大切な、7つのこと。)
・チーフデザイナー、リードデザイナー、デザインプログラムマネージャーという役職が生まれた。
(参考記事:クラウドワークス社のチーフデザイナーに就任しました)
(参考記事:Design Program Manager はじめました)
・デザイナーがいなくてもUXリサーチがおこなわれるくらいには、人間中心設計のプロセスを組織に根付かせられた。
(参考記事:ユーザーインタビューは、いつでも誰でも始められるし、学びは多い)
・経営陣が「デザイン畑の人を経営レイヤーに置こう」というチャレンジをするくらいには、デザインが会社にとって重要な機能になった。
デザイナーやデザイン組織の社内におけるプレゼンスはそれなりに高めることができたし、デザイン文化のようなものができあがってきた。ような気が。しないでもない。たぶん。
デザイン組織の内側にいては、デザイン組織をよくできないと思った。
デザイン組織がそれなりに進歩する一方、いつからか、「デザイン組織の内側に居続ける限り、本当に良いデザイン組織をつくることは難しいだろうな」ということにうっすらと気づき始めていました。いいサービスをつくるためには、デザイン文化がどうのこうのではなく、その土台となる会社文化自体へのアプローチをしたほうがよいのでは、と。また個人としても、気づいたらコンフォートゾーンに片足突っ込んでいて、怠けがちな自分はこのままだとダラけていくな、と感じてもいました。
そんな折、執行役員に就く機会をもらえたことは、ありがたかったです。新しいチャレンジをするには、割とベストタイミングだった気がする。
デザインとは、関係づくりだと思う。
私は、「デザインとは、関係づくりのことである」と思っています。UIデザインとかUXデザインとかグラフィックデザインとかコミュニケーションデザインとか、◯◯デザインという概念は世の中にいろいろありますが、それらすべてが「関係づくり」という言葉で説明できるなと。
建築デザインも、広告デザインも、サービスデザインも、コミュニティデザインも、なんでもそう。誰とどんな良い関係を築くのか、関係を築くためには何をすべきなのか、ただそれだけを考え、手段を選び、アウトプットする。それがデザインなのではないかと。
そして、つくるべき関係は、一瞬で終わる関係ではなく、長く続く関係へと、その重要性がシフトしてきています。何かと何かを結びつけ、先へ先へと関係をつないでいくことこそが、デザイナーの仕事だと思っています。
会社と社員の、長く続く関係をデザインする。
デザイナーではない私が、デザイン担当の執行役員として何をしようというのか。全社にまたがる役割として、デザインの文脈からどんなことをしていこうと考えているのか。
ひと言でいうと、会社と社員の、長く続く関係をつくりたいのです。
インターネットサービス界隈では、もはや、ひとつの会社にとどまり続ける人なんてほとんどいません。これからは古参企業にもその波は届くことでしょう。2019年5月現在、国内最大手企業のトップから発せられた「終身雇用の維持はもう無理」的な言葉が世の中を賑わせています。
これからの時代の会社の在り方として、大事になるのは、持続可能性。言い換えると、組織が長く続く仕組みです。終身雇用なんてない時代に、長く続く組織であるためには、どうすべきか。重要なキーワードとして「文化」があるんじゃないかな、と思っています。
文化という言葉より、「らしさ」「ぽさ」と言ったほうが伝わりやすいかもしれないですね。もちろん、すでに「クラウドワークスらしさ」「クラウドワークスっぽさ」は存在しています。ただ、まだまだ部署ごとに閉じ過ぎていたり、全社を包むものにはなっていない。部署独自の空気とは別に、全社を包む空気もほしい。
文化というのは、急速に、強引に、作れるようなものではない。終わりもない。実態もない。とにかくよくわからない。でも、とりあえずトライしてみたい。まずは、社長との対話から始めています。企業活動の根幹であるミッション・ビジョン・バリューにも、踏み込みながら。
そしていつか、社員からこんな風な声があがるようにしたいなと思います。
「うちの会社って、こんな会社なんだよねー面白いでしょ」
「あ、経営陣はそんな変な意思決定したんだ、ウチの会社らしくて好きだなー」
「次のマネージャーは、あの人がいいよね、だってウチの会社っぽいもん」
ここまで書いてみて思ったのですが、「デザイン担当執行役員」というラベリングの、「デザイン担当」という部分は要らないかもしれないですね。だとすると、私はなんなんでしょう?まあいいか。
デザインする土台も、引き続き整備していきたい。
会社の文化うんぬんと言いつつ、これまで携わってきたデザイン組織についても、もっと強化していく所存です。
最近意識しているのは、人材の多様性。
海外在住のフルリモートで働くデザイナー、子育て重視の時短で働くデザイナーなど、少数派な働き方を望む人も積極的に採用しています。
個人の思惑としては、デザイン組織を、メンバーの働き方が多様すぎる集団にしたい。そういう人たちが普通に居る組織環境は、「世の中の働き方を変えるぞ、新しくするぞ」というクラウドワークスの各種事業に、好影響しかないと思うから。もちろん、瞬間的に組織運営の難易度は上がるんですけど、そのうち普通にどの会社もそうなっていくだろうし、だったらイチ早く舵をきったほうが先行者の利もあるのかなと思っています。
これ以外にも、実現したいことはたくさんあります。
デザイナーが長く働き続けたいと思う組織にしていきたい。デザイナーがどんどん成長できて、長く活躍できるようにしていきたい。デザイナーと会社が、お互いに相手の力をいい意味で利用し合い、高めあっているような状態を目指したい。CDOとCXOを設置して、デザインドリブンでも事業推進できるようにしたい。
言うだけなら簡単だけども。
ちなみに、「デザイン担当 執行役員」という肩書きにした理由はこれ。
なぜ、「CDO」とか「CXO」というトレンディーな肩書きにせず、「デザイン担当 執行役員」という少し野暮ったい肩書きにしているのか。理由がいくつかあります。
・「CDO」「CXO」は、いつの日か事業推進するデザイナーが経営レイヤーに入ってくるときのためにとっておきたい。
・組織づくりをしてきた私の動きに、実態として一番近いのは「VP of Design」(エンジニアだとVP of Engineeringという役割が割とポピュラーになってきてますよね)なのですが、世の中的には全然ポピュラーじゃないので、説明するのはめんどくさい。
ということで、シンプルに「デザイン担当 執行役員」というカタチにしてもらいました。わかりやすさという意味ではベストかなと。
というわけで。
半年後とか一年後に、この記事での公言を後悔していないことを願いながら、終わりにします。
スペシャルサンクス
・在籍中のデザイナーのみなさん。
・かつて在籍していて、いま他社で活躍中のデザイナーのみなさん。
デザイナー採用は常にしております。お待ちしています。