教員や企業管理職のための「時代感覚」 ①:その話、いつの話?
秋葉 丈志
「大学の先生をしてると、学生はそのままで自分だけ年を取っていく」って言われます。
自分にとって当たり前の話をしたら学生が誰も知らなかった…なんて。
そこで、「その話、いつの話ですか」を肌感覚で知るためのエクササイズ。
その話、いつの話?
以前ある会合で、偉い先生が「二・二六事件」(日本史などの授業でやる、1936年の出来事です)を「昨日のこと」のように話すのを不思議に感じたことがありました。
しかし、ある日気づいたのです。
当時70代のその先生にとって、1936年とは生まれたころの出来事なのだと。
「自分が生まれたころのこと」はその人にとっては昨日のことのようですよね?
直接の記憶はなくとも、周りから伝え聞く話からの「肌感覚」が残っているものです。
1990年代以前の話=生まれる前の話
さて、ここで学生たちの話をしましょう。
いま(2023年現在)の大学生は1年生なら2004-05年生まれ。4年生なら2001-02年生まれが多くなります。
今の学生にとっては、2000年代が「生まれたころの話」ということです。
その学生たちに1980年代の話は、生まれる20年前の話をされる感覚です。
これは、1970年代生まれの私が1950年代の話をされるようなものです。
(あるいは1960年代生まれの人が「戦前・戦中」の話をされる感覚!)
1960年代の話は、私が1930年代の話をされるようなもの!
今の学生に1960年代の話は、生まれる40年前の話をされる感覚です。
生まれる40年前というと、1970年代の私にとって1930年代の話をされるようなもの。日本の憲法と9条・日米安保とか、アメリカの公民権運動の話は1950-60年代が多く出てきますが、そうか、これは私が1930年代の話をされるようなものなんだ。
そう!あのとき「二・二六事件」の話を昨日のことのように話していた先生に対して私が思った感覚と同じということになるわけです。
「それって、いつの話ですか?」がリアルに感じられますね!
その話をする前に:学生の時代感覚早見表
というわけで、「思い出話」をする前に、「それっていつのことか」いまの大学1年生から見た時代感覚を一覧表にしてみました。
大学1年生にとっての〇〇年は、45歳の人や60歳の人にとってのいつか??
2016-19年:「中学時代」→45歳の人の1990-93年、60歳の人の1975-78年
2010-16年:「小学時代」→45歳の人の1984-90年、60歳の人の1969-75年
2004年:「生まれたころ」→45歳の人の1978年、60歳の人の1963年
1990年代:「生まれる10年前」→45歳の人の1968年ごろ、60歳の人の1953年ごろ
1980年代:「生まれる20年前」→45歳の人の1958年ごろ、60歳の人の1943年ごろ
1960年代:「生まれる40年前」→45歳の人の1938年ごろ、60歳の人の1923年ごろ
表の見方:
いまの大学1年生に1960年代の話をすることは、45歳の人が1938年ごろの話をされる感覚。あるいは60歳の人が1923年ごろの話をされる感覚!(注1)
応用編
2023年入学(2004-05年生まれ)の大学1年生にとって:
東日本大震災(2011年)→「小1のころ」の話
リーマンショック(2008年)→4歳のころ(知りません)
9・11テロ(2001年)→生まれる3年ほど前の話
阪神大震災(1995年)→生まれる10年ほど前の話
初代ファミコンの話(1980年代)→生まれる20年ほど前の話
フレッシュな(これも死語?)大学1年生を前に「時代もの」の話をするときは、上記を参考に「自分がいつ頃の話をされる感覚なのか」あらかじめ知っておくと、世代間コミュニケーションの準備が整うことでしょう。
また、企業の方が新入社員とコミュニケーションを取るときにもこの視点は応用できそうです。
いかがでしたでしょうか? コメント、経験談大歓迎です。
*注1:大人になるほど、歴史観や歴史感覚が発達してくることも多く、100年前、200年前のことも昨日のことのように感じ、語ることができる場合もあると思いますが、ここでは単純に「同じ経過年数」で比較しています。
(2023年8月7日掲載 2023年8月9日更新)