山花に想う。「山百合 ヤマユリ」
7月、高尾山を越えて奥高尾へ入ると夏草が生い茂る道に変わる。もみじ台の茶屋を過ぎて長い下り坂が始まると、いつも「わっ」と驚かせてくれるヤマユリの群生に出会う。
今年は花期の盛りに当たったようで、花粉をたっぷりとつけた花からは、顔を近づけなくてもスッとした良い香りが辺りに漂っていた。
その時、ふっと様々な山の想いが溢れてきた。追われるように山を駆け巡っていた頃のことを。そう言えばそんなことあったっけなんて取り留めもないようなことまで芋づる式に湧き上がる。
花の香りが、「これが最後よ」と思い出させてくれたのかな?気持ちが薄れないうちに、山と花との記憶を書き留めておきたくなった。
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花の香りでヤマユリを初めて見た時のことも思い出した。それは、日の出前の谷間の登山道で、暗がりの中に不意に現れた白い大輪の花にぎょっとさせられたからだ。
南アルプスの光岳と聖岳を易老渡から2泊3日の天泊で巡った時のことだったが、正直、山の記憶はほとんど残っていない。晴れ間が無くずっと雨風の縦走だった。
写真を見返しても青空は一つもない。その代わりにパソコンのフォルダには花の写真ばかりで、光岩でみつけた「ミヤマムラサキ」がとても可愛くて、思わず小屋でバッチを買ってしまったことを思い出した。
初日は光岳小屋、2日目は聖平小屋で張ったが、2日目も山頂の標識の写真以外は花が数枚あるだけで、茶臼岳を超えた亀甲状土で見つけた「コバノコゴメグサ」が滴をつけて可愛かった記憶が残る。
最終日も真っ白な聖岳を空身でピストンしただけで、西沢渡、便ヶ島まで早々に下った。山は散々だったが、無事に降りてきた安堵の中で、道すがらに咲く白花の「ヤマホタルブクロ」が癒してくれていた。
ところで肝心のヤマユリの写真は探しても無く、真っ暗でブレブレで絵にならないから撮らなかったのだと思う。日付を見たらこの山行は20年も前のことだった。
それ以後、様々な山でヤマユリは見てきた。そんなに珍しい花でもなく、高尾山にわんさか咲いているなんて、夏場は高山に忙しかったので気が付きもしなかった。
だけど、今は毎年高尾山で見ている様な気がする。私にとってヤマユリは高尾山で咲く花になったんだなとしみじみ思った。
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