偶然を引き寄せるため、歩く
アルゼンチンから急いでチリに戻ってきたのは、赤潮早期予測システムの構築・運用を目指す、日本とチリの共同プロジェクト「MACH」について、日本の有識者が語るセミナーがあると知ったからだった。場所はチリ南部・チロエ島の観光地カストロ。セミナーはもちろん有意義だったけれど、翌日たまたま立ち寄った土産屋でチロエ島の文化団体の代表を務めるフアン・パブロ・マルケス氏と出会ったことに、運を感じた。
チロエ島訪問は、今回の滞在では2度目。一度目は、サーモンの養殖現場を取材するために訪れた。相変わらずチロエ島は、放牧地がモザイク状に広がる景色。この滞在では、島についてや零細漁民の取材をできればと思っている。というか、漠然と取材できればいいなぁ〜と思っていたところマルケス氏に出会ったことで、その可能性が格段に増した。初めての無所属かつ海外取材では、取材対象の選定や手配に難しさを感じてきた。マルケス氏のような人物はまさにキーマン。取材について相談すると、快く電話番号を教えてくれ、協力してくれると言ってくれた。ありがたい。
聞くとマルケス氏は、今日たまたま土産店にいるだけらしい。偶然に偶然が重なり、こうして出会ったわけだ。水回りの修理を頼まれたのだとか。チリではこうして、水回りから自動車整備、家屋の簡単な修繕といった身の回りの全てをDIYする人が多い。ついでに、チロエ島関連の書籍で地域住民が筆者となったものをいくつか教えてもらい、その一つを購入した。
書き忘れていたけど、セミナーではプロジェクト「MACH」のメンバーである広島大学の丸山史人教授に話を聞いた。特に「MACH」について深く知りたいわけではなかったが、プロジェクトの経緯や地元民との関係を考慮しプロジェクト名を修正したことなどは、サーモン産業の複雑性を再認識するきっかけになった。「今のところ、赤潮と養殖の関係は明らかになっていない」という事実も、こうして信頼できる人物から直接聞けた。
思い返せば、チリに入ってからまだ3カ月半くらいしか経っていないが、さまざまな人物とおそらく偶然出会ってきた。偶然と言っていいのか分からなくなるのは、自分が「会ってみたい」とぼんやり思っていた人物像に彼らがとても近いから。チリのサーモン産業について知ろうと現地に入り、うろうろ歩いてきたことが、こうした偶然の発生につながっていることは、確かなんだろう。