協同組合とDX
GW如何お過ごしでしょうか?ちゃんと家にいますか?
今回は少しCorporate Innovaiton系のトピックから離れて、協同組合とDXについて考えたいと思います。
1. なぜ協同組合?
実はかなりの市場規模なのです。
協同組合という軸で市場を見ると、食料品・生活用品全体で4兆円の規模となります。組合員は延べ1億500万人。購買生協で2600万人。中小企業組合+労働者協同組合は261万人と、かなりの従事者もおります。
2. 協同組合の仕組み
各国で若干の制度上の差分はあるかと思いますが、日本で伝統的な協同組合以外のモデルで事業を立ち上げる際は、中小企業組合や労働者協同組合になります。このモデルだと、下記のような特性があります。
・組合員として法人も参加できる
組合員は個人だけでなく、特定組合員として法人も参加することができます。これにより資本の充実を図り、企業体としての機能を強化することにつなげることも可能となります。
・組合員の発言権は平等
組合員には出資額の多寡にかかわらず議決権が平等に与えられるので、組織の民主的な運営が確保されています。
また、株式会社ではないため、投資家により株式の取得(=企業の部分的な所有)は原則できませんが、出資自体は可能です。その際は、組合員として、出資額の大小に関わらず、他のメンバーと同等の権利を行使できます。勿論事業から産まれた利益は組合員に分配でき、下記のルールに則ります。
・事業利用分量配当
協同組合が組合員へ商品・サービスを提供し、組合員は代金や手数料などの費用を協同組合に支払いますが、その費用が協同組合を運営するために必要な経費を上回り剰余金が生じた場合に、「いただき過ぎた部分をお返しするという趣旨」で配当されるものです。したがって、利益の分配ではなく、費用の一部と見なして税務上も費用(損金)として分類されます。そのため、配当は組合員の出資額に対してではなく、事業の利用額の多寡に応じて決められます。
・出資配当
協同組合に認められている出資配当は、出資に対する「利息という趣旨」で、払込済出資額の年1割以内で配当するよう制限されています。
突き詰めれば、協同組合のメリットとしては、生産者・消費者などの事業のステークホルダーが企業のオーナーシップを持てるという点にあります。ここから後述する通り、プラットフォーム型協同組合という世界的なトレンドが発生します。(UberやAirbnbなどのシェアリングエコノミー系スタートアップではプラットフォーム側が両サイドのユーザーのマッチングにおいてマージンを取る仕組みだが、プラットフォーム型協同組合ではこの中間マージンが消費者や生産者そのものの所属する協同組合の利益となり、結果的に還元される。より民主的な仕組みになります。)
3. 協同組合のDX
それでは、現状協同組合はどのようにデジタルを取り込んでいるのか。ここでは、上記のプラットフォーム型協同組合も含めて、2つの潮流に分けて見ていきたいと思います。
Old Coop - 伝統的な協同組合によるDX
New Coop - デジタルネイティブな協同組合(主にプラットフォーム型協同組合)
4. Old Coop
10Xの矢本さんのブログによると、日本の生協のEC化率は低く、まだまだのようですね。
2018年の宅配事業の流通額は1.8兆円に対し、EC経由は3,181億円であり、YoY7-10%ほどで着実に成長している。EC化率はおよそ18%となる。購買事業全体で見ると分母は2.7兆円となり、EC化率はおよそ10%ほど。
ただ、日本でもいくつかデジタルを活用した試みが出てきています。
また、生協の2030年ビジョンでは宅配のDXが対象となっており、この点への投資が2020年以降は加速するか?(ちなみに2018年の生協の次期繰越し剰余金は約5億円です。他のスーパー系と比べるとかなり小さめの金額に見えます。独自のシステム子会社を有しており、その年商が40億円程で純利益は6000万円程度。投資金額を考慮すると自前開発よりもオープンイノベーション型での実施が妥当でしょう。)
海外の事例を見ていくと、例えばスウェーデンのCoop SwedenはEC+店舗でのピックアップサービスを展開していて、既に60%以上のスウェーデンの過程にデリバリーしている。さらに各ユーザーの購買データからPersonalizationも進めており、スタートアップと連携してAIアシスタントをリリースしています。
また、デンマーク人口の約31%が加入し、国内で550店舗以上を運営するデンマーク最大の食品小売業者であるCoop Denmarkは、2017年より独自のクラウドファンディングサービス"Coop Crowdfunding"を開設しており、ここを通してフード系スタートアップの製品を積極的に掲載してます。(クラファンでうまくいった製品はCoop Denmarkのリアル店舗でも販売される。)
世界の協同組合売上ランキングで3位のドイツのREWE(スーパー)では、REWE DigitalというスーパーのDXのためのチームを立ち上げて、フードデリバリー、ネットスーパー等様々な実証実験・新規事業を展開しているようです。
他にも農業組合、信用組合など様々な協同組合のモデルがありますので、そちらも面白い事例があればアップデートしていきたいと思います。
このOld Coopでは、基本的に"事業のアップデート"であり、"協同組合"というモデルそのもののアップデート/DXではありません。以下で説明するNew Coopは、"協同組合"モデルそのもののDXになります。
5. New Coop
Old Coop - 伝統的な協同組合によるDX
New Coop - デジタルネイティブな協同組合(主にプラットフォーム型協同組合)
と整理しました。デジタルネイティブな協同組合とは、そもそもビジネスモデルそのものがデジタルな、もはやスタートアップ的なものになります。以下いくつか事例を見てみましょう。
Loomio - 協同組合によるCollaboration Tool
Lilo - 協同組合による検索エンジン
CommonsCloud - 協同組合によるクラウドサービス
Up & Go - 掃除代行マッチング
TaxiApp - イギリスの協同組合版Uber
Stocksy United - カナダのフォトグラファーにより所有されている協同組合。写真の売買プラットフォーム。
Savvy Cooperative - 患者所有の協同組合。疾患データと企業のマーケットプレイス。VCから資金調達を実施している。
Driver's Seat Coop - ドライバーが所有する協同組合。ドライバー向けSaaS+運転データを当局へ売買。
Mensakas - バルセロナのフードデリバリー協同組合。
Digicoop - Kantreeというプロジェクトマネージメントツールを作っているフランスの協同組合
Obran - 協同組合コングロマリット(ポートフォリオにはフリーランサー向けSaaS、協同組合特化型エージェンシー等がある)
このように、マーケットプレイス系、SaaS系などスタートアップが展開している事業とほぼ同様(パクリとも言える)の事業を協同組合として展開するプレイヤーが現れてきています。
これはPlatform Cooperativismと呼ばれるムーブメントに属しており、
1. ギグ・エコノミーにおけるプラットフォーマーのマージンをユーザーに取り戻す
2. 個人情報の売買で利潤を稼ぐプラットフォーマーへの対抗
3. 株主資本主義へのアンチテーゼ(ユニコーンからゼブラへ)
という半ば政治的なアジェンダに即した動きと言えそうです。この動き自体は、Trebor Scholzというニューヨークのニュースクール大学で教鞭を取っている研究者より、2016年に示されました。そこにNathan SchneiderというPlatoform Cooperativism / The Internet of Ownershipのファウンダーが呼応する形で一大ムーブメントとなったようですね。現在北米には、450以上の協同組合があり、大体25個が毎年新設されているようです。(少ない・・!!)
プラットフォーム型協同組合自体は、北米のみならず東南アジアや欧州でもムーブメントとなっているため、現在世界では240以上あるらしいです。(以下データベースから調べられます。)
このプラットフォーム型協同組合ですが、考え方として、ブロックチェーンにおけるDAO(自律分散型組織)やセキュリティトークンの考え方に呼応する所があり、当然これらは一部交わっているようです。DAOは協同組合のDXの究極系と言えそうですが、ただDAO自体が仕組みとして未成熟なため、実現までは時間がかかりそうです。
6. New Coopエコシステム(開発リソース)
協同組合の設立は金銭的にはハードルは決して高くないですが、時間的にはどこの国でも高そうです。(株式会社と異なり国の承認が必要だったりする)
ただし、VCからのエクイティファイナンスが困難なため、デジタルなプロダクトを開発するためのコストをなんとかしないといけません。コスト削減のためには、テクノロジー協同組合やPlatform Co-op Development Kit(プラットフォーム型協同組合のためのSuite)の活用がなされているようです、
テクノロジー協同組合 - デベロッパーが組成している協同組合。相対的に低コストでの開発が可能?(特に協同組合向け)
テクノロジー協同組合の作り方
Platform Co-op Development Kit - Google.orgからのグラントで作られたツールキット。ニュースクール大学が主導。スタートアップが株式会社から協同組合に移行することも支援する。(これは後述するExit to Communityという考え方)。オープンソース。
OpenCollective - 銀行口座がなくても協同組合が資金のマネージメントから決済までできるツール。
協同組合は基本的にコストセンシティブであり、かつ、スケーラビリティをそこまで追求しないという特性があります。(物によっては地域が限定されていたりするため)
この特性にはNoCodeがハマるのでは・・・?という気がしています。(NoCodeについてはこちらの記事をご参照ください。)
日本ではそもそも協同組合でデジタル系の事業をやること自体が恐らくほぼ事例なし?なのですが、withコロナでの飲食店サポートの様子を見ていると、Glide(NoCodeツール)での地域密着テイクアウトアプリが乱立しています。
例えばこれを地元の飲食店が協同組合を組成して、そこに対してNoCodeデベロッパーが地域密着テイクアウト/フードデリバリーAppを作っていくという動きは有効なように思えます。(プラットフォームでの収益は協同組合運営者の飲食店に還元される。フードデリバリー系スタートアップがこのような状況でいきなり全国展開することは現実的ではない。)
7. New Coopエコシステム(アクセラレーター)
New Coopに特化したアクセラレータープログラムも勿論整備されています。
Start Co-op - 12週間のプログラム、メンタリング中心など一般的なアクセラレーターと同じだが以下の点がユニーク。
- 卒業するとアクセラレーター(Start.coop)のオーナーシップを持てる。(アクセラレーター自体も協同組合)
- USD 18,000が投資される。ただし株式ではなく、レベニューシェアにて一定の時間軸で返済される。(Revenue Based Financeのタームシートに関しては後述する。)
NYC Coop Accelerator
UnFound - Co-operative UKとStir To Action(パブリッシャー)の事業
Co-op Canada Accelerator
incubator.Coop - オーストラリア
8. New Coopエコシステム(ファイナンス)
Start Co-opがレベニューシェアによる返済を前提とした出資をしていますが、このようなRevenue Based Financeは協同組合のファイナンス手法の一つとして活用されているようです。他にも、
Seedbloom - 協同組合特化ファンド
シンプルですが、こちらのタームシートのサンプルが乗っています。(レベニューのX%をX年で返済する)
Purpose Ventures - Seedbloomと同じようなスキーム?OpenCollectiveに出資。
Coop Exchange - ファンドではないが、協同組合向けのクラウドファンディングプラットフォーム
Zebra Unite - ファンドではないが、ユニコーン対抗としての"ゼブラ"という考え方を提唱しているグループ。持続可能な事業/投資についての発言力は強い。
Revenue Based Financeは近年VCのオルタナティブとして、主にSaaS企業を対象として北米・欧州・インドなどで見られる投資スタイル。ベンチャー投資額の減少と呼応してこちらのスタイルが伸びるのか?
また、Exit to Communityという考え方にも言及しておきましょう。これはIPOやM&Aではなく、共感するユーザー/投資家が所有する協同組合という形態に法人を転換する事によるExitです。恐らくまだ事例はない上、Valuation評価など謎ですが、思考実験としては面白い。ICO/STOが入り口としての資金調達として機能していたのに対して、こちらはある種似た形態で出口としての資金調達としてコミュニティを考えている。
9. 結論は特にない
大分New Coopの方にボリュームを割いてしまいました。
Old Coop - 伝統的な協同組合によるDX
New Coop - デジタルネイティブな協同組合(主にプラットフォーム型協同組合)
日本ではOld/Newの何も未開拓な領域なので、今後どうDXが進んでいくか楽しみですね。あと協同組合設立の手続きがどれ程のハードルなのか体感値として理解できていなこともあり、趣味で作ってみたいです。お詳しい方いらっしゃったら教えてください〜!
こちらプラットフォーム型協同組合の提唱者であるTrebor Scholzの著作です。(邦訳はまだない・・)
有難うございました🙏