青春18きっぷ、終焉への一歩か?(中編)
<このリニューアルで起こること…鉄道利用者の逸走が始まる>
・青春18きっぷはいわば、鉄道旅のひとつの文化だ
青春18きっぷは、非常に様々な年代から利用されており、ネーミングとしては若者に向けて発売されたとはいえ、実際には社会人、もしくは年配の方も多く使っています。
そのカギとなっていたのは、安さも勿論のことですが、その利便性にあります。
勿論ガチで5日間連続で旅をしてもいい。しかし5人のグループで利用すれば、簡単に日帰り旅行にも使えますし、2人ペアで1泊2日の旅行+どちらかが日帰り旅行で使う。もしくは期間中に5回、日帰り旅行に使う。
使い方は無数なので、金券ショップなどに頼らなくても、かなりの自由度を持って個人レベルで旅に活用することが出来ました。
それが利用者から一定の支持を受けていたことは、過去の青春18きっぷの発売枚数が、2019年までのデータではありますが、60万枚~70万枚をキープしていたことからも明らかです。
金額にしてJRグループで7億円もの収益を上げていたことになります。
コロナ渦を経て、夜行快速の全滅・青春18きっぷが使えない第三セクター転換路線の増加と、逆風が吹く中であり、多少は減少しているのかもしれませんが、それでも極端に減っているとは考えづらく、根強い人気がありました。
・離れるユーザー、残るユーザー
今回のリニューアルで、どのような利用者が今後、残っていくのでしょうか。
金券ショップなどを使って、数日の利用だけ…というユーザーを除いて考えると、元々の青春18きっぷユーザーで一番多い使い方として考えられるのは、1日~2日の旅を何度か繰り返すような旅人です。
主に会社員を想定していて、20代~50代までの利用者層がそこにかなり当てはまるでしょう。
いわゆる週末旅人。
1カ月ほどもある有効期間である特性、また多くの企業が週休2日制であることから、あまり長期の休みは取らずに、期間中に2~3回の旅を計画するという使い方、実はかなり多いのではないでしょうか?
勿論、高齢世代で、そんなに長期間の旅は疲れるという層も含まれます。
このメインのユーザは、恐らくほとんどが壊滅。というのも、お盆や正月といった長期休み期間を除くと、5日間連続という旅は至難の業。
一部は3日間用の18きっぷで旅をするでしょうが、1日あたり単価はかなり値上げとなるだけあって、どれだけ移行するかは未知数です。
また、1週間~10日の休みを使って、毎日は18きっぷを使わずに周遊しながら旅をするような層も、一定数はいると思います。
このような旅にも残念ながら、不向きとなってしまいます。
もしも2枚買うなら、単純計算で倍の値段となってしまい、格安で旅ができるメリットが薄れます。
一方で、ガチンコで列車に乗り続けるタイプのいわゆる「てっちゃん」という分野では、学生を中心として、もう暫く根強い利用が続くかと思います。
僕も学生のころは、5日間連続で夜行列車を乗り継いでひたすら列車に乗り続けるような旅をしていましたし、夜行快速が絶滅した今でも、安宿を泊まり歩いて鉄道に乗る!のを旅の目的として移動しまくる人も、一部にはいると思います。
先日参加した、山形ゲストハウスミンタロハットの、18きっぷ日本縦断企画も一部には好評で、もう既に4回目となっていることからも、そんな酔狂な層は一定は存在します。
ただ、5日間連続で移動し続けるのは過酷なのも事実。時間に余裕があるとはいえ、年配層の利用もかなり減るのではという予想です。
こういったことから、恐らくライトユーザーは、殆どが3日間用の利用にとどまり(しかもかなり頻度は減ると思う)いわゆるオタクなヘビーユーザーが、5日間用の利用に残る…という結果が予想できます。
青春18きっぷがあるから、鉄道を利用していた…もしくは旅に出ていた…という層の一定数の逸走は止められないと思います。
・新たに登場した3日券は利用されるのか?
今回のリニューアルで、新たに3日券が設定されました。従来の青春18きっぷは5日間のみの設定だったため、期間中に使いきれない…というユーザーもおり、その声に対応したものなのかもしれませんが、これで便利になったと言えるのでしょうか?
値段設定は1万円。
どうもこの金額設定がネックになるような気がします。
1日あたりの金額では3333円となり、これは東京起点で考えると、静岡まで移動することで元を取れる距離となります。
しかし、実際に3日間の旅となると、中間日は少し現地の観光に充てたりしたいというのが現実的。
常に移動しまくるというのは、いわゆる乗り鉄という方ならいくらでもこなすでしょうが、一般的にはなかなかしんどいものです。
そうすると、もっと先へ旅をしたいもの。
基本的に移動日を5000円以上移動しなければ…と考えると、東京起点では豊橋。お得度を考えると、名古屋辺りまでは最低到達しておきたいところです。
名古屋往復であれば、通常通り切符を買うと6440円。3日間用と比較で、3000円弱のお得になりますが、ちょっと考えてみましょう。
帰り(もちろん行きでも良し)を景色の綺麗な中央本線で移動することにして、グルリと一周、東京都区内発東京都区内行きで切符を作った場合、10670円。青春18きっぷと僅かしかかわりません。ただし、名古屋まで行くときは、金山ー名古屋の往復分が別途必要です。
しかも、こちらの方が有効期限は連続して5日間。さらに、特急や新幹線も必要に応じて追加すれば乗車可能。また運休など発生時のの救済措置も、通常の乗車券の方が手厚いです。
あ、学生さんなら学割を使うことで18きっぷより安くなります。
注意点は、後戻りが出来ないことぐらい。途中下車は経路上で何度でも出来るので、そこまでのデメリットではないでしょうが。
同じような例は他の区間でも探せばいくらでもあるでしょう。
とりあえず青春18きっぷの旅を…と考えるのではなく、自分の旅程を精査して、通常のきっぷと一度比較してみる必要があります。
・他の交通機関への逸走
また、格安旅という視点だけで見ても、他の交通機関もかなりの選択肢になってきます。
今までは正直、時間はかかるけれど…という前提で考えれば、安く・かつ長距離を移動する最安値の手段は、ヒッチハイクや車で下道を自走を除けば、青春18きっぷ一択だった面はあります。
しかし、実質的な値上げにも捉えることができる。(現地で滞在・観光することを考えると、実際にJRを使う日数は減る)ため、そうすると他の交通機関も充分に選択肢となります。
先ほど例に挙げた東京~名古屋間でも、日中も格安の高速バスがあり、片道3000~5000程度で移動できます。
区間などの条件は限られますが、LCCのセールを狙えば、さらに長距離を格安に移動できることもあります。
安さ&使いやすさというメリットが薄れてしまった青春18きっぷが、これらの交通機関に対抗できるものなのか…と考えると、快適性や乗り換え回数など総合的に考えても、かなり厳しいものになることが予想できます。
<他にも手段はあった?JRは利用者の目線で本当に検討したのだろうか>
それにしても、以前の使い勝手をある程度保持した上でのリニューアルは出来なかったのでしょうか?ある程度の値上げや、多少の利便性の低下は仕方がないにしても、今回のように大幅にきっぷの方向性を変えなくても、手段はあったのではないかと思われます。
・デジタル式への移行
近年、さまざまな各社単独のフリー切符が、デジタル式にて発売されています。ネット上で切符を購入し、スマホの画面呈示で乗車する方式です。
購入から、利用開始の入鋏(画面上で〇日目使用開始ボタンをタップする)までは利用者の自己完結で行えます。
一応、改札の通過の際に係員に見せるという問題は残りますが、それもQRコード対応とすれば、完全に自己完結することが出来るようになります。
残る課題は、長距離乗車となる特性上のスマホの電池切れでしょうか。
これに関しては、乗車区間を精算した上で、後日、利用履歴と紹介した上で払い戻し(紛失再発行と同様の取り扱い)とするのが良いかと思います。
勿論、導入費用はかかるところなので、多少の料金上乗せが必要かもしれませんが、従来の利便性は担保出来る所だと思います。
・学生限定青春18きっぷの導入
従来型の青春18きっぷを、学生限定で発売・利用するようにできないでしょうか?
僕が学生の時は、時間があっても5日間連続で鉄道移動!というような旅の仕方をしていたものの、旅先で数日間滞在するという旅の仕方は、ぜひ時間がある学生にこそして欲しいところです。
発売&利用の際は学生証の携帯及び提示を必須とすれば、金券ショップ等での転売も防ぐことが出来ます。
そもそも青春18きっぷは、そのネーミングからもわかるように、若者に鉄道で旅してもらおうという趣旨で発売されたものと思われます。
学生向けだけでもいいので、従来型を残せないものか…という思いです。
まだまだ続きます。