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観光特急車掌のプライド

僕が乗務していた特急列車。勿論ビジネス利用の方々もいるのですが、温泉や古い町並みなどを擁する観光地へ向かうということもあり、やはり観光の方もみえます。
やはりそれを意識してか、通常の停車駅案内などに加えて、沿線の景勝地を案内する観光案内放送をICレコーダーには準備されていました。
その観光案内放送、絶対に行わなければいけないというモノではないのですが、やはりそこは観光特急、サービスの観点からもなるべく流してあげたいもの。
案内放送を聞いてその方向を見て、喜んでいる姿を見ることは、やはりこちらとしても嬉しいものです。
運転士さんによっては、ダイヤに影響のない範囲でその放送に合わせて速度を落として運転してくれる方もいましたね。その方と話していると、特に若手の車掌を中心に、あまり熱心に観光放送を流さない人もいるようです。

さて、僕の個人的にはその沿線で一番の絶景だろうと思っているポイント、一つ気になってきたことがありました。
そのポイントの景色を眺めることが出来るのは、せいぜい100m程。通常の速度で走っているとせいぜい5秒程度といったところでしょうか。
折角案内放送を流していても、なかなかジャストタイミングで見てもらえるとは限りません。
というのも放送の内訳として、20秒ほどの日本語放送そのあとで20秒ほどの英語放送となっており、合計すると40秒少々。
外国人観光客も多い路線なので、丁度英語放送が始まるタイミングで絶景ポイントに差し掛かるようには調整して放送をしていました。

しかしそれだと、日本人のお客さんがその景色の方を眺めたタイミングは早すぎ。そのうちに注意がちょっと散漫になったときに絶景ポイントを通過してしまい、折角のポイントを見逃すということです。
実際、観光放送を流した後に車内に入ったところでお客さんは「ところでさっき案内してくれていた見どころってもうそろそろなの?」と聞かれ、もう通過してしまったんです…と申し訳なく対応したこともしばしば。

そこで一計を案じました。ICレコーダーの放送の前に、少し早めにこんな放送を入れたわけです。
「ご利用ありがとうございます。このあと、列車が短いトンネルを潜ります。そのトンネルを抜けたところ、進行方向右側が、只今からご案内します、○○(観光ポイント)が一番きれいにご覧いただけるところでございます。どうぞご覧ください」
ちょうど、その絶景ポイントの手前に、トンネルという乗客にもわかりやすい目標があるのを利用したわけです。

そのちょっと特殊な放送を始めてから、僕の乗務している列車で、そのポイントを見逃した…という声はなくなったように思います。

景色もローカル線としては一つの魅力。それを伝える手段の一つが車内放送。ぜひ、世間のローカル線に乗務する車掌さんにはどんどんそういった工夫をしていってほしいなと思います。

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