赤色夜灯(ショートショート)
人のいない夜の道沿いに、赤色の明かりが灯っているという話が男のもとに届いた。
男が調べたところによると、その場所にはもともと、そういうものを設置していないらしかったので、ずいぶんおかしな話だなと思った。けれど、あまりにその旨の話がよく舞い込んでくるため、彼は状況を確認することになった。
***
その日はとても静かだった。
地球から人間の全てが居なくなってしまったような静けさだった。息をするのも億劫になる、と思いながら、男はため息をついた。
夏の温度がまだ残っている九月上旬。日中はまだ、どこかでセミが鳴いている時期。夜の気温は少しずつ涼しくなってきているが、いまだに男は半袖でいた。
蝉以外の別の虫が、草むらから鳴いている。りりり、りりりり。と一定のリズムを刻む。
男が砂利を踏むたびに、おおげさな擦れる音が響く。もしも明かりの正体が人間や動物によるものだった場合、これでは、その犯人が逃げてしまうではないかと思った。同時に、別に何もなければないでありがたいのだけれどとも。
しばらく目撃情報があった場所を歩いてみる。
何も見つからない。仕方がないし何もなかったとして帰ろうか。
そんなことを思い、男があくびをした瞬間、それは起こった。
ぼう、と、目の前に赤色の何かが浮かび上がったのだ。
話にあったとおり、明かりを放つ何かが、道沿いに並んでいる。
よく目を凝らす。光の眩しさの中に、何かの形が見える。まるで、手のひらのような。
手を伸ばしかけて、戻す。それはヒガンバナだった。
いつだったか、ヒガンバナには毒があると聞いた記憶があったためだ。どこに毒を持っているのだったかは忘れたけれど、それならそれで、触れないでおくのがいい。その正体がわかっただけ、よかった。
とりあえず、害はないだろうということを報告する。
ただのヒガンバナ。まあ、発光する理由は不明だけれど、例えば危険な動物が群れているために、その目が夜になって赤く光っている。みたいな理由じゃなくてよかった。
それから、男が後で調べた情報だと、球根に特に毒性があるらしい。そのため、花には触れても問題なさそうだった。
とりあえず、報告を終えたため、彼は家に帰って眠ることにした。
それから数日後のことだった。
調査を行った周辺地域で、行方不明者が現れた。
親族の話だと、家を出る時は特になんともなかったのに、いつまでも帰って来なかった。という話だった。
また、その行方不明になった人物に関して、ちらほらと目撃情報があったらしい。
話によると、行方不明になった人物は、不気味に、赤黒く光る手に引かれてどこかに歩いて行った、とのことだった。
男はあのとき、ヒガンバナに触れかけてやめたことを思い出した。
赤黒く光る手に……。それは本当に手だったのだろうか。
頭の中に湧いてきた恐ろしい想像を、男は振り払う。
きっと、気のせいだ。きっと、ヒガンバナとは関係ない、別の理由で。
そんなことを考えながらも、彼の鼓動は一向に収まらず、冷や汗が溢れるばかりだった。