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灯台守(ショートストーリー)
僕の曽祖父は灯台守だった。
祖父や父はそのことについて、あまり多くを語らなかった。だから僕も、そのことを知ったのは大人になってからで、街はずれにある、今はもう使われていない灯台に、かつて曽祖父が勤めていたことも知らずに育った。
僕が灯台に惹かれたのは、灯台守だった彼との血のつながりによるものなのか、あるいは寂れた場所の雰囲気が好きだった子供心がいまだに残っていたからなのか。
灯台守に関する文献は、あまり見つからない。少なくとも、世間に溢れる情報の中では、それを見つけるのに多少の手間がかかる。
曾祖父が何を経験して、どんなふうに世界を見ていたのか。
それを知るすべは無く、それゆえ、いまだ僕の中の灯台守のイメージはすっぽりと抜けたままだ。
それでも時々、街はずれの灯台に行くことがある。
その姿を見ると、なぜか安心する。航行する船に居場所を伝え、安全な航海を行うための目印、標識。
真っ暗な夜の闇の中で、行き先を見失わずにすむ、眩い明かり。
どこに向かえばいいのか分からない時でも、道標になってくれる存在。きっとそれが、安心感に繋がっているのだろう。
街はずれで寂れているとはいえ、灯台内部の螺旋階段はしっかりしているし、手すりや梯子も、問題なく使えるほどの強度は保たれている。きっと、とても大切に管理されていたのだろう。
灯室のフレネルレンズは、夜になると月の影が浮かんで、過去を懐かしむ眼のように潤んで見える。
満月の夜には、手に持った懐中電灯を消して夜空を眺める。目を瞑って、風や、木々の擦れる音に耳を澄ませる。
暗闇の中に沈殿する潮の気配が、夜の底で静かに漂っている。
頭の中で、今はもう動かなくなった灯台が、まだ活動していた頃のことを思う。どこまでも、遥か遠くまで届く光は、きっとたくさんの船を導いたのだろうと思った。