宝石が流れてくる話(ショートストーリー)
少年は、川から流れてくる宝石を集めるのが趣味でした。
その川は、人工的に作られた用水でした。そこに、どこからともなくキラキラと輝く宝石が流れてくるのです。
はじめて彼が、宝石を見つけた時の事です。
どうにか腕を伸ばして、それを掴んだ少年は突然、「わっ」と驚いて、つかんだ宝石を離してしまいました。宝石はそのままどこかへ転がっていき、無くなってしまいました。
なぜ離してしまったか。
それは、宝石に触れた瞬間に、その中から声が聞こえてきたからでした。よく耳をすませて聞いてみると、その声はなにかの物語を話しているようでした。
少年は、今度こそ落とさないようにしなければ、と宝石を待ちました。それはある日、何の前触れもなく流れてきました。
流れに乗って近づいてきた宝石を、今度は落とさないように、少年はしっかりとつかみます。
そして、聞こえてくる声にじっくりと耳を傾けました。
それはとても興味深い話でした。少年のいる世界では起こることのない、不思議な出来事や、それに関わった人々の体験について語られているのです。
少年は、一本の鉛筆とまっさらな紙を一枚持ってきて、その話を書き留めることにしました。
そうしているうちに、物語はいくつも増えていきました。
流れてくる宝石ごとに異なる物語が刻まれていて、一度も同じ話は流れてきません。
少年は、新しい宝石が流れてくるたびに胸を躍らせ、物語を集め続けました。
その数は数え切れないほどになり、少年はいよいよ、誰かにこの物語たちを伝えたいと思うようになりました。
そんなある日の事、一人の青年が、彼のもとへやってきました。
その青年は、道に迷ったと、大変困った表情をしています。
少年はふと、思い出しました。過去にここへ流れてきた物語の中に、道に迷った人と、それを解決するまでの過程について語られたものがあったことを。
少年は言います。
ちょっと、こんな話があるんだけど、聞いてくれる?
少年はそう言うと、ゆっくりと口を開きました。