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レイトショー(雑記)
午後10時。劇場の中にはほとんど人がいない。
真空みたいな夜の静けさに全身を包まれながら、目的のシアター番号を目指す。
床に敷かれたカーペットの質感。その柔らかさの中に足音が溶けて消えていく。
両開きの扉の片側だけを開くと、その内側はすでに薄暗くなっていて、白く光る画面の中でさまざまな映画の予告編と広告が流れている。
がらんとした客席の中を縫いながら、目的の席に向かう。
館内の空調の温度は、一日の疲れを緩めてくれる。明日は休みだから、今夜はゆっくりと過ごせる。息を吐く。緩んだ疲れが溶けていく。
指先で半券をもてあそぶ。
やろうと思えば自宅でいくらでも映画が観られるこの時代でも、こうして劇場に足を運ぶ贅沢というのがあるような気がする。
劇場の中に、もう一つ夜があるみたいな特別感が好きなのだ。