ゲッコウマスクガ(ショートショート)
ゲッコウマスクガという蛾がいる。
漢字を使って表すと、月光マスク蛾。
マスクの部分だけカタカナなのが気になるところではあるけれど、どうやら月光面蛾(げっこうめんが)とも呼ばれているらしい。
この蛾が多く生息している地域では、マスクの着用が義務付けられている。
なぜかと言えば、ゲッコウマスクガに襲われるからである。
ゲッコウマスクガは、秋の、月が出ている夕方から夜明けにかけて現れ、マスクをしていない生き物を見つけては、その呼吸器を塞いでくるのだ。
つまり、このマスクガに襲われたとき、ぱっと見はマスクをしているようにしか見えない。
けれど、これに襲われた場合、マスクガの鱗粉の毒性により、ほとんどの生物の呼吸器は激しい炎症を起こし、のたうち回るらしい。
その姿がまるで発狂しているように見えるため、そんな症状を引き起こすこの蛾のことを、ルナ、もしくはルナティックモスという俗称で呼んだりするのだそう。
この蛾がいる地域の人々は、この蛾の翅色とは異なる色のマスクを着けることによって、蛾との差別化を図っている。