一千一秒の片隅(4/10)
輪投げをした話
土星の輪を使って輪投げをする 狙うのは あちこちに輝いている夜空の星々である
手から離れた瞬間に 輪はするりと滑らかな放物線を描いて進む
うまく星に輪がかかると まるで鈴のような音がひとつ 響き渡る
ぴんと張り詰めた 凍えそうなほどに冷たい空気のなかを 澄んだ音が鳴り響く
どこまでも広がっていく 遠くまで まるで旅をするかのように自由に広がっていく
金平糖を湖に浮かべた話
昔からよく通っている駄菓子屋から 金平糖を買ってきた
夜の静けさの中で 湖のふちに座り景色を眺める
空気が澄んでいるためか 湖面に映る景色もいつも以上に綺麗に見える
冷たさの中に優しい甘みを内包したような空気
思わず 目の前の景色を食い入るように眺めていると 気がつかないうちに 手に持っていた袋から わずかな量ではあるが金平糖が湖にこぼれてしまったようだ
慌てて掴もうと試みるけれど、そうしたときにはすでにもう間に合わなかった
それはしばらくすると浮かび上がってきて 湖に映る夜空の星の一つになった
砂浜を食べる話
夜の砂浜を歩いていると どこからともなく何かをかみ砕く硬質的な音が聞こえてきた
音の所在を探ると どうやらそれは夜空に浮かぶ月が発しているものだったようだ
訊くと砂を食べているのだという
「それは一体どんな味がするんです」
自分はそんな風に訊く 彼はまるで 何をおかしなことを言っているのだろうというように 首を傾げる
「食べたことはないのか」
それくらいのことはあるだろうと 不思議がるような温度が感じ取れた
「ええ一度も」
それを聞くと彼は 驚いた顔をする
どうやら彼にとって砂というのは 人間で言うところの米と同じような意味があるらしい 確かに米を一度も食べたことが無いというのは変な話だ あくまでも人間に置き換えると ではあるが
その日以降自分は 月の出る夜に白飯を携えて出掛けるようになった
「それは一体何だ」
「食べたことは無いのですか」
「ああ一度も」
夢見る話
一匹の魚が 星の輝く夜空を自由に泳ぎたいと願った けれど それが叶わない願いであることは 本人が一番よく分かっていた
それでもあきらめきれない彼は 川の水面に映る光を星に見立てて その間を自由に泳いでいた
それでも満たされない 彼はいつしか 川の外の世界を旅する夢を持つようになった
あの空を優雅に泳いでいる生き物は何だろう
魚は鳥というものの存在を知らず 全ての生き物は泳いで生活しているものだと思っていた
きっとこの川を飛び出して あの夜空をともに泳ぐことができる日を楽しみにしよう
魚はそんな思いを胸に秘め 今日もまた川の夜空を泳いでいる いつか本当の夜空を泳ぐことを夢見ている
夜話
眠ろうとしていると窓の外からノックをする音が聞こえてきた
何事かと思いながらカーテンを開くと 小さな星の子どもだった
なかなか眠れないらしく 何か眠くなることをして欲しいとのことだった
自分は静かに話し始める 即興で 継ぎ接ぎだらけの拙い話