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一千一秒の片隅(3/10)

 ふと夕飯に立ち寄った店で調味料の瓶が青く発光していた 何事かと思って持ち上げ覗き込んでみると それは調味料の中に星が混ざり込んでいることによる光であった
 注文していたサラダが届き それをかけてみる
 ぱらぱらと音を立てて落ちていく 耳にかろうじて届く程度の小さな音
 フォークを 薄緑色の葉物野菜につき立て 口に運ぶ 
 何度も咀嚼する そうして噛んでいくと時々 程よい塩味の中に微かにカルシュームの味がした

蠍の心臓

 夜空に浮かぶアンタレスに手を伸ばすと それが簡単につかめることに気がつく
 蠍の心臓をもぎ取ろうと 夜空に手を伸ばす 何度か引き剥がすような動作をしていると 突然 木になる果実を収穫したときのように ぽろりとこぼれ落ちた かじると鮮烈な赤の明滅が視界全体を覆いつくした 欠けた部分が激しく火花を散らす
 林檎のような 石榴のような さくらんぼのような味 いくつもの味を行き来する
 食べ終わった後で夜空を見上げると 綺麗に蠍座の心臓が無くなっていた
 いつか元に戻るだろうかと思いながら、しばらくの間その場に立ち尽くしていた
 それから数日後にはすっかり元に戻っていたのだった

ラジオを聴き流していた時の話

 夜にラジオを流している 急にその音が乱れる ざらざらと聞こえにくい放送 それでも耳を澄まして声を聞き取ろうとする かろうじて聞こえるのは 不規則な楽器のような音 あるいは これは宇宙人の声ですと言われれば確かに と思いたくなるような音
 音楽に似たリズムが聞こえてきた どこかの星で流れているのかもしれない不思議な曲 レコードの音が時々飛びながら鳴るのに似ている
 こことは違う星に別の生き物がいるとすれば もしかしたら 案外自分たちと変わらない生活をしているのかもしれない

星が消えた話

 数日前に夜空の星が消えた 月光が眩しいわけでもない 月すら姿を隠しているのだから 星が見えないのはおかしいはずなのだが
 そうこうしているうち 街の片隅で 古い台車を引いた商人がやってくるようになった
 彼は様々な雑貨を売っていて その中に星の姿を映したカーテンがあった
 街の人々はこぞってそれを買い求める あっという間に売り切れて 再び彼がやって来るのは一週間後
 街の人々は空を見上げるのをやめて その星をずっと眺めて過ごすようになった
 商人の男はしたり顔で街を後にする
 夜空の星を奪ったのは この男だったのだ 星を切り貼りしてカーテンを作り売りさばいた
 街の夜空は 他の誰でもない住人たちの手によって閉じ込められてしまったのだった

花が喋り出した話

 満月の夜に花畑を歩いていると 誰かから呼びかけられた
 辺りを見回しても 人はいない
 気味悪くなって 早足でその場を立ち去ろうとした時 再び声が聞こえた
 今度はそれが どこから聞こえてくるのか分かった
 足元からの声だった 花が語りかけてきているらしかった
「私の声が聞こえますか?」
「はい、聞こえますよ」
 自分は何でもない風を装って話す まさか花も会話ができるなんて思いもしなかった
 彼女は(聞こえる声の質感から女性であると判断した)夜の話し相手を探していたのだという
 自分は話した この花畑には収まりきらない 広い世界の話や 煌めく宝石の美しさ 夜の街灯の包み込むような温度 その全てを話した
 彼女は興味深そうに聞いていた 風に吹かれたせいなのだろうが まるで頷きながら話を聞いているように見えた
 夜が明けるころにはずいぶん仲良くなって またいつか話をしようと言い合い 別れた
 満月の夜だけ口を利くことができる花は 今夜もあの場所で夜空を見上げている

 
 最近、ラジオっていいなあと思います。音楽と一緒に、人の声だけが聞こえてくる。
 聴覚だけに頼る娯楽といえばいいのか。
 
 それを聞きながら、他にもやりたいことができるってすごくいいなあと思っていて、
 YouTubeでもよく授業型の動画がアップされていたりしますよね。
 あれも

 視覚と聴覚の両方で楽しむものと、
 やろうと思えば、聴覚だけでも楽しむことができるもの

 がある気がしていて、もしかしたら前者と後者で
 ”求めている人の層”というか、それらを欲しがっている人の層がそれぞれ違うのかなあと思ったりします。
 ちなみに後者の、やろうと思えば~というのは、
 実際に目で見たほうが分かりやすいこともあるけれど、別に
 視覚を駆使しなくても聞ける、動画のことです。

 もしかしたら、そういう人たちは意識的にそういうのも計算してやってたりするのかなあ? と考えることがあります。だとしたらすごいですねえ。

 お腹がすいたのでこれにて終わりにしようと思います。食パンを食べます。コーヒーも飲みます。よろしくお願いします。
                              たけなが

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