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街灯もやし(ショートショート)

 新しい街灯が近くで作られるらしい。
 その辺りを囲うように、真っ黒で大きなテントが立てられた。
 完成までの日時が示されなかったため、いつ終わるかは分からない。
 けれど、いつまで経っても工事のはじまる音がしない。このままではずっとテントが残ったままで、僕らからしてもそれなりに不便だ。
 街灯が作られることになった理由は、その場所が夜になるととても暗くなってしまうから。
 そして実は、もう一つ理由があるらしい。
 街灯を作る工事費がすこぶる安かったというのだ。
 あまり安すぎると安全性に不安があるのでは、と思ったけれど、どうやら大丈夫らしい。
 けれどある日、その工事費を聞いた僕は、思わず目玉が飛び出してしまいそうになった。
 20円。それが街灯を作る工事費らしい。
 あくまで噂で流れてきた話なので、きっとこの金額プラス技術料なんかも支払うのだろう。
 とは言えど、である。
 この金額はあまりにも安い。
 これではまるで、もやしを買った時の金額と大差ないではないか。
 そんなことを知り合いに話すと、驚くべき返事が返ってきた。
「どうもそうらしい」
 どうもそうらしい、とは。一体どういうことだろう? 今の自分の会話の中に、”そうらしい”に繋がる内容などあっただろうか。
 僕がしたのはあくまで、もやしみたいな金額だ、という話だけ。
「そう、どうやら街灯がもやしでできているらしい」
「もやし?」
 あまりにも突拍子のない話で、思わず声が裏返ってしまった。
 そんなことがあっていいのだろうか。街灯がもやしで? いや、どういうことだよ。
「どうやら変わった品種のもやしがあるらしく、生長すると街灯になるらしいんだよ」
「まじで……?」
「うん、そうらしい」
 僕はその知り合いとしばらく見つめ合う形になった。もちろん二人の間に愛が芽生えたわけではなく、ただ単に訳の分からない現象を前に立ち尽くしているのと変わらなかった。

 ともあれ数か月後、工事は完了したらしく、真っ黒いテントも取り払われた。街灯を見た第一印象は、やっぱり普通の街灯で、とてももやしには……。
 見えない、見えない、よな?

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