海中から(雑記)
琥珀色をした尾びれが揺れる。
海中から空を見上げる。呼吸が泡になって昇っていく。海の中では声や音よりも、感情による振動の方が、大きく響くような感じがする。
朝日が溶けた尾びれが、波間を静かに漂う。
私は両腕をゆらゆらと揺らして体のバランスを取る。沈むこともなく、浮かび上がることもせず、同じ場所に漂い続けている。そうした、水と自身の体の挙動によって、ここが現実の世界とは異なることを理解する。
大きな魚影が頭上を泳いでいく。
空を覆いつくすほどに大きな木陰が、自ら動いて横切っていくのを眺めているみたいだ。
呼吸のタイミングが、魚影が泳ぐのに重なった気がして少し嬉しくなる。その空間と一体になったような、緩やかな幸福感。
海中では感情だけが唯一、雄弁だった。