ホワイトチョコザメのかまぼこ
浜辺にホワイトチョコザメが打ち上げられていたという話が広まった。
ここ最近はこのサメも、めっきり人前に姿を現さなくなっていたため、みんな大騒ぎだ。やれ祭りだ、踊れ騒げと大合唱。
町の誰かが釣り上げた訳でなければ、モリで仕留めたのでもない。けれど、みんな娯楽に飢えていたのだろう。いい機会だとばかりに、それはそれははしゃぎ回った。
かなり大きいホワイトチョコザメだった。5メートルはゆうに超えていただろう。もしこんなものを仕留めようなどと馬鹿げたことを考える者が居たら、一瞬にして喰われておしまいだ。
町の人々は、とりあえずその身を数等分に切り分け、食べてみることにした。
刺身にたたきに唐揚げ。唐揚げにした時の身が意外とうまい具合に溶けて、絶妙なサクトロ食感になった。
ただ、それなりの量だったため、一日で消費するのは難しかった。下手に冷凍すると、風味が落ちてしまう。どうしたものかと悩んでいると、一人の青年が言った。
「ねりものにしてみては?」
その意見には全員が膝を打った。なるほど確かに。元々のホワイトチョコザメの生の食感は損なわれてしまうものの、加工品という別の食品に変身させてしまえば、少なくとも長持ちさせることは出来る。さらに、加工した食品が独自に持っている風味、食感、味を楽しむのも、それはそれでアリではないだろうか。
さっそく町の人々は、ねりものを作る準備を始めた。
サメの身をすりつぶし、こね、卵白だの片栗粉だのを入れてさらに混ぜる。それをかまぼこ用の板にのせ、蒸す。
身を全て処理するのに、かなり時間がかかった。それぞれ雑談しながら、ゆるゆると作業を進めた。
完成した。それは想像していた以上にぷるぷるだった。浜辺に打ち上げられてからそんなに時間が経っていなかったのかもしれない。新鮮な身は、かまぼこ特有のぷりぷりした食感を生み出すのだそうだ。
「「「いただきまーす!」」」
一斉にかぶりつく。もちもちの食感。噛みしめるほどに濃くなっていく、ホワイトチョコの甘味。微かな塩味と潮の香りが良いアクセントになっている。
「うま」
「いいですね……」
「あまーい」
みんな口々に感想を言う。
「なんか、ういろうみたいですね」
「ああ、わかります。この食感といい、口どけの感じといい」
「ですね。うまい」
「これならすぐに無くなってしまうかもしれないですね」
そうして話していた通り、サメの身はすっかり無くなってしまった。
町の人々は、再びホワイトチョコザメが来るのを待ちわびた。あまりに待ち遠しすぎて、自分たちでそれに似たお菓子を開発してしまうほどだった。
ホワイトチョコレート味のういろう。なかなかうまい具合にできた。サメを食べたときの感動が蘇ってくる。これなら、再びホワイトチョコザメが流れ着くその日まで、ヤキモキせずに済みそうだ。
いつしかそれは町の名物になった。観光客が多く訪れ、町自体も"ホワイトチョコザメが流れ着いた町"ということで有名になる。
そんなある日、待ち望んだ瞬間がやってきた。再び浜辺にホワイトチョコザメが流れ着いたのだ。その日が来ることを待ち望んだ人たちは、歓喜の声を上げた。となるはずが、存外そうでもなかった。
みんな、ホワイトチョコのういろうの方を気に入ってしまい、サメにすっかり興味を示さなくなってしまった。
とはいえ、そのままサメを置いておくわけにもいかず、とりあえず、奥まった風の強い崖に保管しておくことにした。うまく行けば、サメの水分が抜けていい具合に乾燥する。それならきっと、腐らせてしまうことも無いだろう。
思惑通り、サメの体はみるみるうちに固まっていった。
いつしかそれは、密かな町の観光スポットになったという話だ。