ゴールドクレストのホウキ(ショートショート)
「今日の天気は、雪のちイルミネーション、ところによりオーナメントとなるでしょう。ゴールドクレストの用意が必要です」
リビングのテレビから流れる天気予報は、そんな風に告げている。僕はまた今日もか、と思った。
「あら、今日もオーナメントが降るの? 最近こんな天気ばっかりね」
母さんはまるでひとごとみたいにそんな風に言った。手には朝食用のスープが入った鍋の取っ手が握られている。温かそうな湯気が立ち昇り、いい匂いがする。ベーコンの塩味やキャベツの甘さがしみ出しているような匂い。
それを感じながら外を見る。窓の外には雪が降っていて、僕はその動きを追いかけながらぼんやりとした意識の中で呟く。
「うん、そうみたい」
「雪ならまだいいんだけどねえ、イルミネーションにオーナメントまで降ってきちゃうと、ちょっと大変なのよね」首を傾け、あごの辺りに手を添えながら、考え事をする動き。それに対して僕は答える。分かっているくせに、というニュアンスを醸し出しつつ。
「いいじゃん、今日の当番は僕なんだから」
その言葉に、ううん……。と唸りながら母さんは言う。
「そうだけど、もし大変だったらちゃんと言うのよ」
「わかったよ」
この季節は、我が家では当番制で家の周りを掃除をすることになっている。そうしないと、人々の通行の妨げになってしまうからだ。もちろんこれは、我が家に限ったことではないのだけれど。
冬になると厄介なのが、オーナメントだ。
雪ならばまだ、雪かきや除雪で道を開けられるし、やりようによっては素早く解かして、道路から無くすこともできる。
けれど、オーナメントは別だ。雪のように同じ場所に留まってくれない。特に丸い形のオーナメント。あれはどこまでも転がっていくうえ、ひとところにまとめようとしても、いつのまにか崩れてぐちゃぐちゃに広がってしまう。
まだオーナメントが空から降り始める前は、それを、各家庭で用意した樹にぶら下げたり、飾り付けることで、冬の寒さを乗り切るためのイベントにしていたらしい。
それが今となっては厄介者扱い。オーナメント側からしてもきっと、納得はできないだろう。
けれど、僕らも僕らで、いつも通りの不自由ない生活を送れるか否かがかかっているため、そう簡単にまあいいか、となるわけにもいかないのである。
そんな中、大きな役割を担うことになったのが、ゴールドクレストなのだ。
ゴールドクレストというのは、常緑針葉樹の一種。常に葉の茂っているチクチクした葉を持った植物で、小さなクリスマスツリーのような形をしている。クリスマスツリーというのは、先ほど話した、樹にオーナメントなんかを飾り付けたもののことだ。今では、見かけないことこそないが、昔に比べるとそれに対した時の神秘性や特別性は感じられにくくなっている。
なぜかと言えば、それはひとえに上空から降ってくるオーナメントに、街自体あるいはそれが降る地域の全ての人々がそれなりに苦労を強いられているからだ。
話を元に戻そう。
なぜ、ゴールドクレストが、オーナメントが降るときに”大きな役目を担う”のか。そしてそれは一体、どんなものなのか。
実はゴールドクレストが、オーナメント専用のホウキになるのだ。
ゴールドクレストをオーナメントの前でひと振りすると、不思議と、オーナメントだけがゴールドクレストに吸い寄せられるのだ。まるで磁石みたいに。
すう、と吸い込まれたオーナメントは、そのままゴールドクレストにくっついてしまう。その性質を利用して、掃除をするのだ。
そして一年の最後には、その年に集まったオーナメント付きゴールドクレストを各家庭から持ち寄り、キャンプファイヤーで一斉に焚き上げをしてから新年を迎えるのだ。
かなりの量が集まるからと言って、乱雑に処理するようなことはしない。ゴールドクレストに感謝の念をもってファイヤーするのだ。
そうすると、なぜか不思議と、初めからそこには何もなかったみたいに、オーナメントは霧散し、それらが無くなった分、夜空の星が一層輝くのだ。
一説には、地上に降ってくるオーナメントは、星のかけらから出来ており、それをもとの場所、つまり夜空に返すことによって、その輝きも戻るのだと言われている。