一千一秒の片隅(5/10)
夜の青色について
真ッ黒い宇宙の 星間物質の隙間を縫って あるいは不純物を濾し取られ 艶のある月光が 夜の街を静かに照らす
露草のように青く 瑞々しい輝きが 煉瓦のタイルの色彩さえも奪い取っていく 街の血の気は失せ 生き物と呼ばれるものの気配すらかき消されてしまった
自分の肺を膨らませる空気も硬く ビードロのような冷たさを持っている 肺胞が凍えて全身を震わせる
吐く息は白く立ち昇り 夜空にわずかに浮かぶ鉛色の雲の一部となった
声はぴしぴしと音を立てて凝固し 元のかたちすら分からなくなってしまった
夜が自分の中に入り込んで 全身が青く染まる 瞳の色も肌の色もその全てが染まる
ピーコックブルー インディゴにミッドナイトブルー
瞳では見えない青の火花が弾け その冷たい音だけが夜を支配する
夜の進みが遅く感じる話
星の一つが 煙草の煙を燻らしながら
「最近はどうだね」
と尋ねてくるものだから 自分はその真意を測りかね
「何がですか」と訊き返した
すると彼は 「何がと訊かれても分からないが 仕事や日々の生活のことだよ」とそんな返事をよこした
ずいぶんと曖昧な訊き方だとも思ったが それを口にはせず思いつく限りの言葉を並べた
すると彼はふんふんと何度も首を縦に振り 「ううむなるほど」と唸り始めた
これといって答えのようなものを求めていなかった私は 始まろうとした会話の端をちょん切ッて そこで終わらせようとした
「ほら最後まで聞いていきなさい」
呼び止められてしまっては仕方がない 夜の過ぎる遅さを感じながら 手を擦り合わせる温度で暖をとることにした
星と眺める夜空の話
街路灯の白さが温度として体に刺さる
夜の近づく速度が以前にも増して早い そのぶん夜空に星のあらわれる時間が長くなった
彼らと何か話をしようにも 毎日のように話していると 会話をすることにそれほどの必要性を感じなくなる
夜は静かに星空を眺める 会話をすることがなくても それだけで構わなくなる
星がくしゃみをする 自分は鼻を啜る 何方からともなく咳払いをして再び静寂が下りる 夜闇の凝縮された濃い静寂
時計の針すら止めてしまいそうなほどに濃密な黒が 今この瞬間も目の前に広がっている
星を齧った話
何気なく夜空を見上げると くっきりと歯形のついた星が浮かんでいる
どこかで見たことがあるような気がして思い返すと 自分が子どもの頃 夢の中でおいしそうだと思い齧った星に似ていた
あれは夢でなく 現実で起こっていた出来事だったのか と思った瞬間 どこかの家の子ども部屋から 一部が齧られた星が勢いよく飛び出して 遠くへ逃げ去っていった
ああ 自分だけではなかったのだなという安堵感と 同時に先ほど抱いた少しの優越感がぽろりと欠けたような ほんの少し寂しい音がした
窓辺
窓の内側から眺める夜空が 歯車がうまく噛み合った時のように完璧な姿で 自分はもうこの場所から動くべきではないと ある日悟った
それ以降 ずっと同じ場所に座り込んでは その移ろう色を眺めている
そういえば夜が始まってもう何年目になるだろう 朝日が昇るのはあとどれくらいの時間を要するのだろうか
昔から夜の空気感というものが好きで、とにかく夜更かし大好き!
という人間だったのですが、最近はシンプルに疲れるのでほどほどにしなければなあと思っています。
何だかんだ、あの空気感の中でずっと作業し続けるのは
結構大変なのではないかな、と思っています。
というのも、あの独特な空気感は集中力を上げるにはもってこい(自分にとっては)なんですが、
”午前中ほどの解放感がない気がする”というのがあるんですね。
解放感は大事だなと思っているんです。
数時間ずっと籠って何かを作るときは特に、
書き続けるためとか、考え続けるためにリフレッシュが欲しくなる。
そのための解放感が、午前中であれば外の景色を眺めるといったような。
夜は基本的に暗いので、意識してリフレッシュするようにしなければ、
絶対に首とか肩とかをやってしまうなという予感があって。気を付けなければ……と思うこの頃です。
たけなが