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誘蛾灯(ショートストーリー)
私はいつも引き寄せられてしまう。
部活動の帰り道。
同じ部活というわけでもないのに、帰宅時間を合わせてしまう。
夕方の街はオレンジ色と紫色の間で揺れ動きながら、空の端っこに沈んでいく。あっという間に夜がやって来る。その、夕方と夜のほんの少しの十数分、私たちは同じ帰路を帰る。
彼は自転車を押して歩く。その横を私は、いつもより少し大きめの歩幅で歩く。
自転車のカラカラとなる微かな音と、季節ごとの虫の鳴き声が、まるでドラマやアニメのワンシーンみたいに私たちを切り抜いている。
人の歩みに合わせて点灯する自転車のライトは、少し頼りなさげで、けれどその明るさが私たちの拠り所になっている。それはまるで誘蛾灯のようで、ついその輝きを欲してしまう。夜行性の虫や昆虫にでもなった気分だ。
二人の声は、その下校時間の暗さに隠すにはちょうどいい。うまく隠すという意味では、自転車のライトの頼りなさもちょうどいい具合な気もする。
「先に帰ってればいいのに」
私の気持ちを知ってかしらでか、彼はそんなことをいう。
「まあ、方向が一緒だし。ボディーガードにもなってくれるし」
「俺をなんだと思ってるんだよ」頭を書くその姿を横目に見ながら、ふふ、と笑う。それに、と、彼は言葉を繋いだ。
「こんなヒョロヒョロじゃ、むしろ俺がボディーガードしてもらう方だろ」
「はあ? 私をなんだと思ってるんですか?」おちゃらけて、少し抑揚をつけ気味に言う。
「なんだろう、すごいつよい人?」
急に語彙力がなくなったみたいな返事が返って来る。思わずその肩のあたりをぺしん、と叩く。
「いった。脱臼したかも」
「うっさい」
悪態をつきながらも、きっと明日もこの時間を望んでしまうのだろう。そんなことを思った。それこそ本当に誘蛾灯に引き寄せられる虫みたいだ。虫であっても、せめて美しい羽を持っていられたらいいのに、なんて思う。
私の心は綺麗なのだろうか。この目に見えている世界は、これから歩いていく世界は、今のこの時間ほどに美しいと思えるものなのだろうか。
「それじゃ、また明日」彼が自転車に跨りながら、手を挙げる。
「うん、また」私は控えめに手を挙げる。
自分の手のひらが、街灯に照らされて、夜の空気の中で舞う蛾の白さに似る。
自分の手のひらを見つめて、蛾、かあ。とため息をつく。せめて蝶とかならいいのに、と思う。けれど、夜に飛ぶ蝶というのは聞いたことがない。もしかしたらいるのかも知れないけれど、私は見たことがない。
どうでもいいような、どうでも良くないような、曖昧な日々が過ぎていくのを、私はタただぼんやりと見つめることしかできないのかも知れない。
きっと他の人にとってはどうでもいいことなのだろう、と思うことを、私はいつまでも考え続けてしまう。いつも、同じような思考にふわふわと引き寄せられる。
家の玄関口で、リビングからの呼び声が聞こえ、扉を静かに閉める。