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太陽の雫(ショートショート)

 雪の中に埋もれた太陽を見つけた。触っても熱くない。
 指先だけで突いていたのを、今度は持ち上げてみることにした。
 包み紙を丸めるような、クシュ、という音と共に、雪の表面からその球体が剥がれる感触があった。ゆっくりと持ち上げると、それは徐々に熱を持ち始める。
 ついさっきまで止まっていた鼓動が再び動き始めたような感じだ。
 さらに持ち上げる。透明なしずくが滴り、きりきりと光る雪の上に落ちる。
 空にはもう一つ太陽が浮かんでいる。それに透かすようにしてみると、手のひらの中の太陽の内側が、何やら液体で満たされていることに気づいた。
 なんだろうと思い、数回振ってみる。
 微かにピチャピチャと揺れ、溢れんばかりの光を発する。そのあまりの白さに、景色が全て溶けてしまいそうなほどだ。
 どうにかしてこの球体の中のそれを取り出すことはできないだろうかと思案する。それが一体何からできているのか、どんな変化を示すものなのか興味があった。

 家に持ち帰り、割ってみることにした。
 キッチンでは、一人でいるとおおよそ使う機会のないボウルを取り出す。
 先ほどの太陽を、一度水ですすいで、余分な水気は拭き取る。割れた時に、内側の液体に水が混ざってしまわないようにとの配慮からである。
 ボウルを片手で固定して、もう片方の手に持った太陽を、勢いをつけてぶつける。
 かちん、となった音はどこかぎこちなく、うまく力が伝わっていなかったらしい。もう一度、今度は先ほどよりも勢いをつけて、割れるようにする。
 がちん。先ほどよりも確かな手応えがあった。
 卵を割るのと同じ要領で、ボウルの上にあける。
 太陽の中にあった液体が滴り落ち、冷たい音が鳴る。
 見た目は春のよく晴れた日の小川の反射のよう。キラキラと眩い光を発散している。
 匂いはなく、そのほかに特筆することもない。
 何かに使えるものなのだろうか。それとも、なんの意味もなさないものなのだろうか。それとにらめっこをするけれど、結論は出ない。
 とりあえずはしばらくそのまま置いておくことにした。
 結局何か変化が起きるわけでもなく、数日後にはすっかり蒸発してしまった。
 けれど、最後にボウルの底には何やら光り輝く粉状のものが付着していたため、それだけは殻になった瓶の中に保管しておくことにした。

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