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一千一秒の片隅(2/10)

 星が螺子を落とした話

 空から何かが降ってきて 煉瓦にぶつかった拍子にこつりと音を立てた
 何事かと見てみると それは銀色をした螺子だった
 あまりに綺麗なものだからコレクションにしようと拾い上げると おういと空から声が聞こえた
 星のそれだった その螺子を貰えますかと声が聞こえた
 その声をきっかけに他の星たちも それは私のものだ いいや私のものだと競いはじめた
 自分はどうすればいいか分からなくなって その螺子を放ってしまう
 煉瓦のタイルにそれが落ちた瞬間 一瞬にしてそれらの声が聞こえなくなってしまった

 彼女が瞬きをするたび そこからは星屑が舞い散った
 それは涙ほどの脆さはなく 地面に転がり落ちてからもしばらくは消えずに残っていた

ガス燈の明かりをお供に歩いた話

 ガス燈の明かりで 街全体がスペサルティンを散りばめたように輝いている
 その中の一つが やけに眩いので何事かと思っていると どうやら月のかけらが窓の隙間に挟まっているらしかった
 かけらから雫のようなものが滴っている 手に取るとそれは樹液のように指先を伝って掌に収まった
 自分はそれを ポケットの中の空き瓶に流し入れる
 洋燈のように光を放って足元を照らす
 街外れの家に向かう途中 暗闇を進むのにうってつけの明かりだ ゆっくりと夜道を歩いて帰る
 風のなる音はいつしか消え去って 虫の鳴く ビードロのような硬い声が聞こえている

海に飛び込んだ星の話

 静かな夜 黒々とした海面に青白く光る星が落ちた
 それを見たものは誰もいなかった それはただ海の底に沈んでいくだけであった
 数日が経ち 誰も知らないまま海底を漂った光は 何か硬いものにぶつかった
 ずいぶん前に海の底で死んだ魚の骨の残骸だった 星はそれを自分の身体を守る盾にし 外敵から身を守った
 いつしか星は魚の姿になった 骨には身がつき 目が見えるようになった
 時々星の綺麗な夜に釣りをすると それがかかることがあるらしいが 普通の魚と星魚との違いが何なのかは 誰にも分らない

星を捕まえた話

 街灯の明かりに虫が集まっていた
 けれど近付いてよく見てみると それは星であることが分かった
 家からペットボトルを持ってくる 星を閉じ込めようと思ったためだ
 捨てずに置いてあったカフェラテの空容器 蓋に錐で穴をあけて 空気の入り口を作る
 そうっと近づき 蓋を外したペットボトルを星の虫に被せる 丁度 動きの遅い星がいたので捕まえることができた
 夜はやけに目が冴えて あまり眠れなかった
 次の日の朝
 星を入れておいたペットボトルは横倒しになって 蓋には幾つも穴が開いている
 いつの間にか星はどこかへ消え去ってしまっていた
 部屋の中には微かにカフェラテの匂いが漂っていた

 夜とカフェラテの相性って結構いいと思っているんですね。
 もちろんコーヒーやココアとかでもいいのですが。
 日を跨いだ後の、夜の孤独感というか世の中と切り離されている感じ
 あれを乗り切るためにはお供が必要で、
 それが僕の場合カフェラテだったり、コーヒーだったり、
 いわゆるコーヒーの仲間たちなんです。
 そんなことを繰り返していると、
 星からカフェラテみたいな匂いがしたらどんな感じだろうと、急に思い立つんですね。
 星が全部カフェラテの匂いだったら、夜の空気もカフェラテの匂いになるんじゃない!? 最高だな!!
 と、超絶胸やけしそうな、狂気に満ち満ちた妄想をしているわけです。怖いですね。
 僕の場合、そんな願望をより現実に近付けていってショートショートを考えたりするんですが、割とそういうのが楽しかったりします。

 現実ではあり得ないけれど、こんな世界があったら面白そうだよね! 
 というスタンスです。
 ファンタジーなんて実際はあり得ないけれど、
 こんなことがあったら楽しそうだからいいじゃん、という。
 半分以上、現実逃避で書き始めたことでも、実際やってみるとちょっとワクワクしている自分がいて。
 そんなこんなで今日も、おかしな妄想を繰り返してにやにやしています。

 もしも街中で、やけににやにやしながらメモを取っている人がいたら、
 僕かもしれないので、うっわ……(´_ゝ`) とか思いながら
 やさしい心で見逃してやってください。
 よろしくお願いします。恐惶謹言。
                              たけなが

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