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国の目標スピードの10倍超え?!全国から注目のワクチン接種「高速大名行列」とは
2021年5月29日、「高速大名行列式」を取り入れた宇美町の集団接種会場の様子が取材され、瞬く間に全国に放送された。
高速接種で効率化を図る「大名行列方式」。高齢者はまず受け付けで予診票を記入。その後、案内された席へ。接種の時間になるとキャスター付きのいすに座った医師が横滑りで移動してきて注射を打つ。接種が終わると次の高齢者の席にまた横滑り。医師が大名行列のように並んだ高齢者の接種を次々と高速で済ませていく。(特捜Qチーム 全国から注目の高速接種「高速大名行列」式って何?ワクチン接種本当の課題とは?より抜粋)
6月9日NHK「ニュースウォッチ9」でのトップニュースをはじめ、24以上のチャネルで「高速大名行列」が取り上げられた。編集部調べによると、以下が出演情報である。
有名になったきっかけは、この方式を考案した黒田医師がグロービス経営大学院の学生(執筆している編集部は全員この大学院生である)であったこと。授業後の雑談中に披露していたところ、講師が「このオペレーションは感動モノ!拡散しよう!」とtwitterに投稿したのである。時速4,000リツイートのペースで瞬く間に拡散し、当日のリツイート数TW26,000と日本一をたたき出した。講師の西口氏は「うひょ、一位になっちゃったよ」と驚きを示した。
福岡の宇美町での接種オペレーション。動きの遅い高齢者は座ったままで、医者とチームで動く。行政は1時間15人目標のところ、10倍の150人は楽勝とのこと pic.twitter.com/6fjkHmwDjy
— 西口敦 (@anishi0001) May 16, 2021
磨き抜かれたオペレーション
この何が人々の注目を集めたか。ひと言で言うと、オペレーションの美しさ=オペレーショナル・エクセレンスであろう。
オペレーショナル・エクセレンス
operational excellence
オペレーショナル・エクセレンスとは、企業がその価値創造のための事業活動の効果・効率を高めることで競争上の優位性を構築し、徹底的に磨き上げること。オペレーショナル・エクセレンスを確立した企業では、高い業務の品質や効率化により他社が真似できない品質、スピード、コストを実現でき、優位性を持てるだけでなく、常により良いオペレーションを追求しようという考え方が現場の末端まで浸透し、継続的なオペレーションの進化を可能にする仕組みができていることが多い。このため他社が「どうすればよいか?」が分かっても容易に追いつけないレベルの持続的優位性を実現している。トヨタ自動車やフェデックス、マクドナルドなどの企業が、その好例として挙げられる。(オペレーショナルエクセレンスとは・意味)
一般製造業であればごく当たり前の戦略かもしれないが、限られた時間の中での立ち上げ、医療行為という安全性が絶対視される業界、思いついても周りを巻き込んで許可を取っていくのがが難しい…さまざまなことが予想される中で実現させた点が注目を集めたのだろう。
オペレーショナルエクセレンスの要素と大名行列方式
優れたオペレーションの要素には①スピード②正確性③コスト④継続性(持続可能性)等の指標がある。求めるアウトプットから逆算して、会場設計、導線の確保、役割分担、機材や道具の確保、接種の手順を考慮しボトルネックを発生させないように整えていく。
①スピード:システム全体のオペレーションで創出される早さ。従来1人2~3分かかっていたものが、1人20秒程度に短縮。これでも現場は余裕だという。
②正確性:安全と安心の会場設計。上記の画像のように、会場の認識性の高さと動線の短さが特徴である。人の往来が最小限で、ぶつかる心配も少ない、注射針を打ったら座ったまま15分待てる、確実な方法だ。
③コスト:スピードはコストに直結する。1時間あたりの接種本数を増やし、無駄な機材を使わないこと。会場設営費と人件費の両方が節約につながる。
④継続性(持続可能性):現場の運営レベルが安定してきたら、接種を看護師に任せ、出来るようになれば交代し、多くの業務を経験させる運営をとる。一人のプロフェッショナルが接種しているだけでは継続性がない。続く・仕組み化する、という視点が重要だ。
高速大名行列のオペレーションが一般企業と異なる点:マネのしやすさ
一般企業の目的は競争上の優位性を構築し差別化させること。一方で、高速大名行列式は、できるだけマネされることを目指している。この点がオペレーション戦略上の唯一の違いだ。簡単なモノを使った工夫、ネット通販で容易に手に入れられる形で提案することで各自治体・組織で真似しやすい形にしている。
(靴は真似しなくても良い。ちなみに、flowermountainのものだそう。)
「特別なことはしていない」
国のワクチン目標に「一方的な明言はやめて」という自治体の声がある。国が掲げる「7月末完了」を巡り、県民や自治体から困惑の声が相次いでいるという。職域接種も予定が見え始め、現場では混乱が予測されるだろう。
一方で、この大名行列式では「国の目標スピードの軽く10倍は超えられる」と黒田は語る。「普段からインフルエンザワクチンを打っている経験があるし、財源は国民の税金なのだから、使ったら使った分将来のコストとして跳ね返ってくる。スピード第一に考えるのは当然」だという。
おそらくは「国の目標にいかに近づけるか?」ではなく「(そのような指標を超えて)早く、安全にみんなハッピーに打つには何をすればよいか?」という問いがあったのだろう。世間では「逆転の発想だ!」とか「画期的!」と言われるが、黒田本人は違和感を感じているようだ。普段から「なぜ、なぜ、なぜ」と考える癖がついているという。工夫の一つ一つやその効果については、次の記事でじっくり書いていく。読んだらきっと、ワクワクするはずだ。ぜひ楽しみに、お待ちいただきたい。
編集部:ちだ(仙台在住)