「ちょうふく」? 「じゅうふく」?
質問
「重複」の読みの「ちょうふく」と「じゅうふく」の違いについて教えてください。
「重」という漢字には、大きく分けて「おもい」と「かさなる」の2つの意味があり、中国語ではこれらの意味によって発音を区別しています。前者が「zhòng」、後者が「chóng」です。
一方、日本語ではいずれの意味にもジュウとチョウの読み方があります。前者が呉音、後者が漢音であるに過ぎず、意味による発音の区別ではありません。そこで、慣用としてどちらがより長く用いられているかという問題になります。
「じゅうふく」という読みは、明治期から既に存在していたものと推定されます。1893年(明治26年)に刊行された松原岩五郎のルポルタージュ『最暗黒之東京』の中に、「ぢうふく」のルビが振られている箇所があります。
古物商の中間に働らく仲買の多數は槪して失敗を重覆(ぢうふく)したる商人の落武者にして……(一五)
しかしながら、明治大正期では、あくまで「ちょうふく」が規範的とされていたようです。1891年(明治24年)に刊行された日本初の国語辞典とされる『言海』には、「ぢうふく」(じゅうふく)はなく、「ちょうふく」の見出しだけが記載されています。
また、1915年(大正4年)に初版が発行された、代表的な近代的国語辞典である『大日本国語辞典』にも、やはり「ちょうふく」の見出しのみが掲載されています。
三省堂が刊行した『時代別国語大辞典』の室町時代編を見ても、見出しにあるのは「ちょうふく」だけです。さらに、「ちょうふく」の項には、中世から近世にかけての字引である、広本『節用集』(1474年頃)にある記述として、「重覆(チヨウフク)」の用例が記されています。
以上から、「ちょうふく」が中世から続く伝統的な読みであるといえそうです。「じゅうふく」は明治以降に出現した比較的新しい読みで、昭和に入ってから徐々に市民権を得るようになったといってよいでしょう。
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