ゴールデンチーズ王国をエジプト神話から考察する

クッキーランキングダムEp.1の最後のステージ、ゴールデンチーズ王国について、モチーフ元になったであろうエジプト神話と古代エジプトから考察していこうというプレゼンです。

ただ、ゴールデンチーズ王国のメイキング動画では、独自性を強調されているので、どこまでモチーフにして制作されているかは不明です。
【参考】
http://www.moonover.jp/bekkan/index.htm
https://youtu.be/rdlYRInd7eA?si=C1mRjCN0aDSiz-3F
https://youtu.be/8VGZLryvMTQ?si=9kML71Y9-nFlAwoj
「面白いほどよくわかるエジプト神話」ミズペディア編集部著 kindle版
「ゼロからわかるエジプト神話」かみゆ歴史編集部著 kindle版
「ゆるゆる神様図鑑―古代エジプト編-」宮田崇著 kindle版


エジプトの神と対応しているクッキー

まず古代エジプト神話とは何か、ストーリーとの比較をしようと思いましたが、ストーリーが一ひねりがくわえられていて単純比較ができないので、比較的単純に考察できる主要クッキーのモチーフ神について、先にやっていきたいと思います。

ゴールデンチーズクッキー

他の神々モチーフクッキーたちを統べる神。巨大な翼を持つことから、ゴールデンチーズクッキーのモチーフは太陽神ラーであることは確定であると思います。

ラーについて解説すると、太陽神という形容の通り太陽をつかさどる神です。太陽そのもの、という側面も持っていますが、一番は太陽(の舟)を運行するのが役割として大きいです。

太陽は東から昇って西に沈みますが、これをエジプトの人々は「太陽は東から生まれ西から死の国へ入って一度死に、再び東から生まれる」と捉え、死と再生の象徴として古代エジプトの歴史を通して最高神として崇められました。

エジプトは上下に大きく、他民族を征服したり、また歴史が非常に長いので、神々のパワーバランスが入れ替わったりもして、よく言えば多様な解釈ができる、悪く言えば整合性があまりない宗教なのですが、ラーが太陽神であり最高神であるというところは崩れたことはほぼありません。唯一、アクエンアテンという神のみが神であるという一神教が台頭した時に、太陽神と最高神をアクエンアテンに奪われましたが、一神教と言うように、他の神々もすべて排斥されていたので、本当にラーは揺らぐことのない最高神であると言えるだろうと思います。

そんなラーですが、非の打ち所のない立派な神。というわけでも決してなく。

後述しますが、セトとホルスの戦いでは、自分のお気に入りであるセトを身びいきして、ホルスを認めなかったり、永遠を象徴するような信仰を受けながら、「老い」と深く結びつけられ、口を閉じることができずに垂れ流した自分の唾液で毒を作られてもだえ苦しむとか、人間から老いたことを馬鹿にされて自分の娘をけしかけたら、想定外に殺し過ぎて慌てて止めたりと、死者の書で描かれる太陽の運行者はベースにあっても、老いもすれば間違いも犯す神としてのエピソードもそれなりにあります(この辺りはエジプトが多神教であり神官が権力を持っていたために、自分の神や教義を広めるために誰もが知っている神であるラーが利用された側面も大いにありますが)

ラーの基礎的な話をしてきたところで、ゴールデンチーズクッキーをクッキーランキングダムのエピソード17と18での描写で見てみると。

・ゴールデンチーズ王国の王であり神である。
・ゴールデンチーズ王国を当時で一番豊かな国にした。
・誰よりも欲深く、自分のものを何一つ失いたくないという対象は民にも及ぶ。
・栄華の光のソウルジャムを持っている。

まず王であり神である、というところは、古代エジプトでの最高権力者はファラオと呼ばれ、王様なのですが、彼らは神とも同一とされる存在です。ここで言われる「神」は、ほぼイコールでホルスですが、死後エジプトの人々は太陽の舟に乗り死の国へ向かうので、死後ラーになったり、あるいはラーの神官の後ろ盾がある場合、自らをラーの化身であると名乗ったり、ファラオ=ラーという見方もできます。

が、ゴールデンチーズ王国には、後述しますがホルスがモチーフであろうクッキーがすでに存在していて、古代エジプトではファラオはホルスの化身であるというのがほぼほぼなので、ホルスがいるのにラーが王である……?という疑問もあります。

ゴールデンチーズクッキーは王であり神を自称しているので、そのうち王ではなく神のみに従事するようになるのだとすれば、古代エジプトで幾度となく繰り返された世代交代も表せて、その展開のためにあえて王も兼任しているのかもしれませんが。

ゴールデンチーズ王国を豊かな国にしたという点ですが、一応ラーも太陽なので、日照りで作物を枯らしたり豊穣の側面も持っているとは思いますが、古代エジプトでは豊穣はナイル川やナイルがもたらす黒い(緑の)土が大きく担っています。というのも、ナイル川は年に数回増水して氾濫し、上流の肥沃な土を運んでくるために、砂漠であってもエジプトは農業が盛んになり、豊富な食糧をもたらし氾濫しすぎれば逆の結果をもたらすナイル川を、人々は豊穣の神として崇めていたのです。

死の神オシリスも、生きていたころはナイルの豊かな土を司る神であり、その妻であるイシスはナイル川の氾濫を知らせるシリウスも司っているので、彼女もまたナイル川と縁が深く豊穣を司る女神であるとされています。

なので、古代エジプトにおいて豊穣を司るのはナイル川であり、太陽は縁遠いものになります。太陽はどちらかと言えば、上で示した通り死と再生の象徴で、豊穣をもたらすものと言うかというと、微妙です。

ただ、王国の描写ではフォーカスされませんでしたが、ゴールドチーズの川が流れていて、ゴールドチーズが魂の貯蔵庫で国を支えている、ということは言われているので、恐らくゴールデンチーズ王国が豊かである所以もこのゴールドチーズの川なのかな?というところはあります。

ただ、黄金であり鉱山があるので、あの土地自体が豊かである、とも言えるのかもしれませんが、ここのところはよくわかりません。

クッキーランキングダムにおいては、ゴールデンチーズ王国を豊かにしたのはゴールデンチーズクッキーである、となっていますが、ラーがエジプトを豊かにした、という神話も特にはありません。ただ、黄金とはその不変性から太陽と同一視されるので、ラーとは黄金をもたらすものとして捉えるなら、確かにゴールデンチーズクッキーが富をもたらすとも言えます。

ただ、ゴールデンチーズクッキーは元からあの土地にいたクッキーではなく、ソウルジャムのうわさを聞いてよその土地からやって来たという古代の力のエピソードが追加されたので、そこのところもエジプト神話のラーではない、というところではあって謎は深まるのですが、整合性があまりないというのが古代エジプト神話なので、エジプト神話っぽいところもあれば、ないところもある、ということなのかなというところで適度にスルーしていきたいと思います。

ゴールデンチーズクッキーの欲深さというところは、ラーが欲深いというのは、金のマスクや宝飾品などの贅を凝らした埋葬品などがある割に、埋葬品は死後の世界を快適に過ごすためのものであり、神話にも富に執着するというものはないので、意外にも富という点での欲深さはラーにはあまりないです。

しかし、その地位に対する執着心は並外れたものがあります。老いる神というところで軽く触れましたが、人間に馬鹿にされたら殺戮してしまったり、ホルスとセトの戦いではセトと顔なじみだからというのと、ホルスが自分に益があるか分からないという理由で神々の中で数少ないホルス否定派になりますし、その地位や生活の安定への執着心は相当です。

この部分をそのまま自分だけでなく、エジプトすべてに適用すると、確かにあのぐらい欲深いキャラクターになるのかな、と思います。

スモークチーズ味クッキー

スモークチーズ味クッキーのモチーフは、ハヤブサのような頭巾のデザインからホルスであると考えられますが、その性質からセト神の要素も含まれているのではないか、と思います。

セトは兄オシリスを嫉妬から殺害し、王の地位も簒奪して悪政を行い、正当な王位継承者であるホルスを牢獄に閉じ込め、力比べでの対決ではどのような手を使っても勝とうとするなど、このオシリス殺害=最初のミイラと死の神オシリスの神話、ホルスがファラオとなる裏付けを行うためのこの神話で、ファラオに敵対するもの、悪神であるとエジプト神話で位置づけられました。

まさにヴィランとして描かれたスモークチーズ味クッキーにふさわしいモチーフですが、元々のセトは、太陽の舟の舳先に立って、ラーを襲う本物の邪神、アポピスを退けるもの、つまり太陽を守る戦いの神でした。ホルスとも、二人でファラオを祝福するレリーフがあるなど、どうもセトもファラオの側面を持っていて、それはホルスと対になっていた、という意味もあるのです。

http://www.moonover.jp/bekkan/god/seth.htm
より引用

現に歴代のファラオにもセティという名前のファラオが何人かいて、セティとセトで音が似ていることからもわかるとおり、このファラオたちはセトを信仰していました。

セトは砂漠の神、戦の神である通り、武力に対して恩恵のある神なので、力を求める人々はセトを信仰しました。

一方のホルスは、これらも包括していますが、他国との戦争という外向きの力を持つセトに対してのホルスということで、内政や賢君としての側面が強いです。

領土の拡大や他民族からの侵攻の撃退などに必要な武力と、王国の安定をもたらす統治者としての能力、この二つがファラオには必須であるとされたわけです。

そんな対等であったはずの神が対決して、片や王権の守護者、片や悪神と、明確な格差をつけられることになったわけですが、これはセトとホルスがどうのと言うより、上でも語ったように、宗教戦争が勃発し、勝者がホルスであったため、とされています。

エジプトは千葉の上総と下総のように上下で分かれていて、南の上エジプト(ナイル川の上流)がホルス、北の下エジプト(ナイル川の下流)がセトを信仰する勢力が優勢で、それらの勢力がファラオの座を巡ったかファラオに気に入られようとしたか、理由はどうあれ争いホルスが勝利したので、以降はホルスが絶対の善なる神に、セトはホルスと敵対して乱暴狼藉を尽くす悪神となった。という経緯です。

で、スモークチーズ味クッキーに話を戻すと、セトとホルスという観点から見てみると、このクッキーはホルスの外見的特徴は持っているけれど、性質はだいぶセト寄りじゃないか?と私は感じています。

まぁまずホルスは善なるファラオの象徴というところで、ホルスが敵になるというのはエジプト神話で言うとありえない。最近の創作だとちょっと怪しいところもありますが、古代エジプト神話の中ではほぼほぼありえないことであると思います。少なくとも現時点で判明している神話の中で、ホルスが悪神として振る舞ったことはありません。それもここまで解説していると当然で、ホルスが悪として振る舞うということは「ファラオが悪と化した」同然なので、愚かな振る舞いをしたとしても悪をなしてはならないんですよね。

この点でも、ホルスをモチーフとしているのにヴィランと明言されるような悪役として登場され、最後主人公たちに糾弾され倒されるということで、かなり攻めた内容になっているというか、エジプト神話的にはだいぶ違和感がある仕上がりになっています。

ただ、彼がセトもモチーフに混ぜられているのだとすれば、この配役は納得がいくし、ホルスも混ぜられているからこそただの悪役で終わることはなかった。のかな~と思います。

スモークチーズ味クッキーはゴールデンチーズクッキーに意見をしますが、その中で「他の地域へ侵攻して国の力を増すべきだ」という意見を述べるのですが、これがまさにセトの戦争の神としての権能であり、ファラオがセトに期待する部分です。

他にも、侵入者の拷問を担当していたり、あの国の後ろ暗い部分を担当している、というのも、オシリスを謀殺し妻と息子であるイシスとホルス、自分の妻であるネフティスも牢獄に入れたり、ホルスとの戦いでも割と汚い手を使って勝とうとしたりと、セトは残虐な神であり冷徹な策を考えられるタイプであるというエピソードがあったり。(ホルスも情け容赦なくセトを抹殺しようとするんですが、彼は若い神でありセトは仇で、セトの方が大人げなさすぎるのでほぼ不問扱いになっています)

洗脳の力、というのは特にセトにはそういう力はありませんが、人に害をもたらす動物はセトの眷属であるとされているので、人に害をもたらすモンスターを従えている、というところからスモークチーズの薫香を絡めてあのような設定になったのかなと思います。

というのも、身もふたもないメタ考察をしてしまうと、公式が出したスモークチーズ味クッキーのアイディアスケッチに、思いっきりセトが出されていて、そして赤色とは古代エジプトにおいては砂漠を意味し、セト神のイメージカラーとして有名なので、スモークチーズ味クッキーはホルスはもちろん、セトのモチーフもほぼ間違いなく入れられているだろう、と個人的には思います。

バスクチーズ味クッキー

これはアヌビスですね。というところで話が終わってしまうのですが、しかし純然たるアヌビスかと言われるとちょっと違います。

まずアヌビスは死者の審判に参加し、心臓の重さを量る天秤を持っているのですが、その重さを量る羽根を持つのは、真実の神マアトという別の神で、心臓を食べるのもアメミットという別の神で、実質たった一人で三人分の働きをしているということになります。

で、彼が仕えているのもゴールデンチーズクッキーですが、アヌビスはラーに仕えるのではなくオシリスの忠実な部下です。セトに殺されたオシリスをイシスと共に探してミイラにし、セトとホルスの争いでも終始オシリスの息子ホルスの味方をするので、生粋のオシリス派です。

また、ミイラ作りの神であり、死者を導くものですが、墓守というわけでもなく、それこそ門番という権能があるわけでもありません。ただ、実は同じ犬の頭を持ったウプウアウト(ウェプワウェト)という神がいて、死者が死の国に行くまでの護衛を務めたりファラオを守ったり、先陣を切って戦う、あらゆる道を武をもって切り開く神として信仰されていて、もしかしたらこの神が混ざっているのかな?と思います。

そうなると、ゴールデンチーズクッキーにあれだけの忠誠心を持っているのも、ゴールデンチーズ王国を守る武人で、滅亡の際には最初に犠牲になったというのも神話の神と絡めることができますが、現代においてアヌビスと並べるような知名度は持っていないけれども、犬の頭を持ち同一視されていたからモチーフに選んだとすると、かなりエジプト神話を調べられているんじゃないか?ということで、古代エジプト神話好きとしてはこの王国関連のストーリーはどこをどう拾ってアレンジするのか期待も高まります。

モッツァレラ味クッキー

明確な先の三種のクッキーに比べて動物の特徴がないので、どの神をモチーフとしているのか自信はありませんが、ハトホル、イシス、ネフティスの三女神ではないか?と睨んでいます。

まずハトホルですが、彼女はラーの娘で愛の女神であり冥界の裁判に列席する女神であり、ホルスの母?であり妻とされます。

ホルスの妻ということは、イコールでホルスがモチーフのホルスがモチーフのスモークチーズ味クッキーの妻なのか!?っていうところで、私個人としてはスモークチーズ味クッキーが窮地に陥ってもそのような話が一切出ないし、二種の温度感からも特にそのような感じは受けてはいませんが、注目すべきはホルスとアヌビスの二神のどちらとも縁が深いというところです。

で、実はイシスとネフティスもホルスとアヌビスと縁が深い女神です。

イシスはホルスの母親であり、実はアヌビスの養母です。そしてネフティスはアヌビスの実の母で、イシスとは姉妹なのでホルスの叔母にあたります。そして二神とも死者の守護神であり、イシスは玉座、ネフティスは王の館を司っていて、ファラオを守るものでもある、つまりホルスを守るものでもあります。

モッツァレラ味クッキーは、自分の塔を持ち、モッツァレラでできた椅子に座って王国を見守る魔女ということで、玉座でないですが椅子を持ち、自分の館を持っている。そしてイシスは神々の中でも魔法に長けていて、魔法によってオシリスをミイラとして蘇らせ、息子であるホルスをサポートした強力な女神です。ハトホルとしては、ゴールデンチーズクッキーに近しい女性クッキーであること。チーズを太陽として見ると、ハトホルの牛の角の間に太陽円盤をいただいているのと同じような冠を被っていること。ハトホルの別名「天空の女主人」のように塔の最上階にいるということ。というところから、この三女神がモチーフ元なのではないか、と捉えています。

Wikipediaハトホルの項目から引用

フェットチーネ味クッキー

彼女はミイラ、ということなので、エジプトにおいて最初のミイラであるオシリスがモチーフではないか、と思います。

死の国の王といたいけな少女がイコールで繋がるのかというところですが、フェットチーネ味クッキーはどうやらバラバラになっている体を、フェットチーネの包帯でつなぎ合わせているという発言があり、これはセトに体を切り刻まれてそれを包帯で繋ぎ合わせたオシリスの逸話のオマージュであること。

死者が再現されていた黄金の国と自由に行き来することができるということは、半分死んでいるということで、これも蘇った直後のオシリスと被ります。(オシリスは結局そのまま生き返ることができずに死の国へ行くことになるのですが)

実際にオシリスだとすれば、死者の国であった黄金の国の正当な主はフェットチーネ味クッキーだった、ということになりますが、あれはゴールデンチーズクッキーのソウルジャムの力であり、フェットチーネ味クッキーは記憶を失っているし魂が欠けているということなので、色々とまだ謎が残っていて、オシリスであることは確定だけれども、どのような役割を持っているのかはわからない、考察としてもまだすることができないクッキーになります。

神官チーズボール鳥とチーズボール鳥たち

神官チーズボール鳥だけじゃないのかというところですが、チーズボール鳥も同じような身体的特徴を有しているのと、彼らも大事な役割を担っているのでモチーフ元を辿りますと。十中八九トト神であると思います。

トト神とはトキの頭を持つ神様で、当然くちばしが長く、チーズボール鳥たちもくちばしが長い鳥です。トキなのでトト神はスマートでチーズボール鳥たちはまるまるとしていますが、重要なのはトト神はあらゆることを知っている知識の神であり、あらゆることを記録する神であるというところです。

神官チーズボール鳥は長く生きているからというのもありますが、賢くゴールデンチーズクッキーたちを見守るものであり、チーズボール鳥たちはゴールドチーズの柱という記録媒体を管理するという仕事を担っています。

フェットチーネのパピルスもありますが、王国が滅んだときに一緒に一度砂と化したと思われるのと、ゴールドチーズが記録しているのは王国民の魂なので、やはり情報の重要度ではゴールドチーズの方が上であり、あの国の根幹でもあります。

さらに神官チーズボール鳥の側近たちだけなのかはわかりませんが、チーズボール鳥をハグすることで癒されるという能力もあり、トトも癒しの術を行える医術の神でもあるので、知識と書記、そして癒しの力を持つチーズボール鳥はトトをモチーフとした存在であると言えると思います。

エジプト神話から見たゴールデンチーズ王国

人物の考察もしたところで、ストーリーも含めてエジプト神話や古代エジプトからゴールデンチーズ王国を見てみます。と言っても相違点が多かったり、エジプト神話的に考えたら今後の展開こうなのかな~?という願望も含みますが。

まず、ゴールデンチーズクッキーの紹介でも言ったとおり、エジプトにおいて恵みをもたらすのは太陽ではなくナイル川が大きいです。しかし、ゴールデンチーズ王国ではどうも黄金がそのまま富であるとされており、鉱山や渓谷がありますが、古代エジプトにおいて金を産出したのはヌビアからナイル川上流の上エジプトの地域です。

で、ゴールデンチーズ王国とはピラミッドのあるカイロなどの下エジプトではなく、ヌビアなどの上エジプトを中心にエジプトをぎゅっと圧縮して作られたのだと思います。

それはゴールデンチーズ王国の伝説にもあらわれていて、ゴールデンチーズクッキーは黄金の卵から産まれたとされていますが、ラーが卵から産まれるのは上エジプトのヘルモポリスに伝わる創世神話です。

古代エジプトでは、下エジプトのヘリオポリス、上エジプトのヘルモポリス、上下エジプトが統一されたメンフィス、古代ローマ帝国の支配下でのテーベと、創世神話が四つもあります。そしてそれぞれ、太陽神ラー、知恵の神トト、創造神プタハ、太陽神アメン・ラー(ラーと習合された)をそれぞれ崇めていました。

初期構想では元々ゴールデンチーズ王国はチーズボール鳥たちの国であった、ということであり、チーズボール鳥たちはトト神がモチーフなので、トトが中心となるヘルモポリスの神話を基にしたのかな?と思われます。

こう考えると、かなり制作チームはエジプト神話を調べてストーリーに組み込んでいるのではないか?と信じたい気持ちがむくむくと出てきます。

ただエジプト神話としてみると、「う~ん」と思うところも当然あります。

死者の国を表現するために黄金の国を作った、ということで、仮想空間が死者が到達したい楽園イアルの野であるというのもいいですし、ゴールデンチーズクッキーがオシリスも兼ねているというのもいいのですが、う~ん。

まずエジプトというのは「永遠」を強く信奉していて、太陽信仰も死者の国への準備も、永遠の象徴であり永遠を得たいからやるのであって、永遠がない、というのは古代エジプト人にとっては果てしない恐怖です。

でいうと、結局閉じてしまった黄金の国とは、全然イアルの野ではない、死後の世界ではないんですよね。あそこで彼らの神話は崩壊してしまったというか、受け入れて次を待ちます、というスピリットって恐らく古代エジプト人にはない概念なのではないか?と。死者の審判を失敗したらアメミットに心臓を食われて永遠に虚無をさまようことになるので、一回だけのチャンスなわけです。

それが失敗してしまっているので、しかも死者のせいではなく死の国の管理者のミスで、ということなので、黄金の国とは不完全というか、偽りの死者の国なのでは?という印象を私は受けてしまったんですね。

そして古代エジプトにおいては、太陽神も重要ですが、ラーに敵対するものの存在というのも重要で、スモークチーズ味クッキーでも書きましたが、アポピスというとてつもなく強大な悪であり、闇を司る蛇がいます。この蛇に敗北することで、日食が起こる、永遠が失われるということで、恐怖そのものとして捉えられています。

で、闇というところで、クッキーランキングダムでは「暗黒」魔女がいて、彼女がありとあらゆるすべての恐怖をもたらすものとしてされているんですが、あの世界にはリコリス海の怪物や黒白龍などの自然発生する怪物がいるわけですが、ここにアポピスがいるのではないか?と私は考えています。

というのも、ゴールデンチーズ王国は黒粉戦争で滅亡した王国なのですが、ゴールデンチーズクッキーの回想では本当に跡形もなくなっていて、粉しか残っていないんですよね。暗黒魔女と因縁があり、同じように滅亡したピュアバニラ王国も建物などは残っているし、ダークカカオ王国とホーリーベリー王国は住民も生き残り国の体裁も残っているので、本当に何もなくなってしまったのはゴールデンチーズ王国だけなんです。

当時一番栄えていたとされていて、防衛能力も低いわけではなく、モンスターを洗脳する力を持つスモークチーズ味クッキーがいるのに、チーズボール鳥たちを辛うじて逃がすことしかできなかった。というところまで果たして追い詰められるのか?と。

チーズの名を持つ刑事なんかもいて、末裔が生き残っているのか?という感じもありますが、特に関係があるような描写もなく、神官チーズボール鳥が鉱山まで逃げてチーズボール鳥たちを住まわせた、というような描写もあって確かに逃げ出すことができたという事実もありそうなのですが、時系列がわからないのと神官チーズボール鳥が鉱山まで逃げたのか、それとも逃がす際に言ったのかわからないところがあり、断定がまだできない。

実はゴールデンチーズ王国のストーリーは、何がどうしてどうなったのか、何が真実で嘘なのかがかなり曖昧にされている感じがあるんですよね。

考えすぎなのかもしれませんが、
1勇敢なクッキーたちはミイラの棺を見つけたので、全員がミイラになり安置されていると思っている
2ゴールデンチーズクッキーは粉になってしまった民を見つけ、王国を作り直した
3スモークチーズ味クッキーは「我々(の肉体)はハチミツと蜜ロウに閉じ込められたまま地下に置き去りにされている」と言っている
4神官チーズボール鳥は「国民のカラダはすべての欠片を組み合わせて保管している」と言っている
5少なくとも神官チーズボール鳥はミイラを残してはいないらしい

少なくとも国民の肉体がどうなっているのかについてだけでも、「ちゃんと回収されて保管されているので問題ない」と、「バラバラになったまま地下にある」との二つの解釈が存在し、その肉体も、粉になるまでバラバラになっているのか、原形が分かる程度にバラバラになっているのか、というところは不明です。

なのでこの物語はまだ不完全で、それこそ考古学者が証拠を探して歴史を組み立てていく段階にあるのではないか、と思います。いや、住人であるゴールデンチーズクッキーがいるんだから謎なんて何もなくない?と思っています。だからオリーブ味クッキーがまだ調査をしなければならない。

のかな、と。

行動を共にしているフェットチーネ味クッキーも、魂をかじられていて記憶がないので、なぜミイラになっているのか分からないというのも謎ですし、彼女が生前はどういうクッキーだったのかというところも謎ですしね。少なくとも王国民であったということは確かではあり、「ちね、こわい?」などのセリフがあったりするので、ゴールデンチーズ王国ではないかもしれませんが迫害を受けたことがあるらしく、かなり闇が深い背景がありそうです。

ただスモークチーズ味クッキーも、ただ一人コロシアムでモンスターと戦うという重い刑罰を受けたらしいとか、最初からファラオのモチーフを与えられていて最終的にもやはりファラオの守護神であるホルスのモチーフに落ち着くなど、「ファラオ」としての側面が非常に強くフォーカスされているので、単なるヴィランで終わると「ファラオは悪である」ということになって、古代エジプト神話の根幹が揺らぐので、もう一度今度は本当の死者の国で何かあるのではないか、と期待しています。

アポピスの棲み処も死者の国で、そこでラーと戦うので、死の国の王であるオシリス=フェットチーネ味クッキー、死の国の王の息子にしてラーを守るホルスとセト神=スモークチーズ味クッキー、ラーの娘で死者を守る女神ハトホル=モッツァレラ味クッキー、死者を守り道を切り開くアヌビスにしてウェプワウェト=バスクチーズ味クッキー、死者の裁判を見守る神トト=神官チーズボール鳥、ということで、冥界行きとアポピスとの対決、本当のイアルの野へ行く下準備は整っているように見えますが、どうなんでしょう。

ちなみに古代エジプトとして見てもおかしな部分があって、それがコロシアムの存在です。

古代エジプトでは奴隷制度というのもほぼ存在しないとされており、罪人への刑罰というのもよくわからないところがあるのですが、神殿などはあっても闘技場のようなものは当然存在しません。

で、コロシアムがあったのは古代ローマであり、ローマはエジプトよりも後に作られた国家で、最終的に古代エジプトを支配して滅亡に寄与した国です。そんなモチーフが割と初期構想からあったらしく、無邪気な尊厳破壊なのかなんなのか判断に迷いますが、一応こうとも考えられます。

クッキーランキングダムにおいては古代ローマが先に生まれ、滅んだ後に古代エジプトが築かれた。コロシアムは前代の遺物を再利用した、ということですね。

古代の力のエピソードで、ゴールデンチーズクッキーは「ソウルジャムのうわさを聞いてやってきた」ようなので、その前に栄華の光に選ばれ、伝説となってしまった、つまり滅んでしまった国があるということになるので、現実とは反対の歴史を辿ったということにしてみたのかな、と思います。