【考察】グエルとラウダ-中編
前編では、グエルとラウダは、兄弟であり相棒であり一番の好敵手であり、一番の理解者であり信頼を向けていること。そんな二人は父親であるヴィム・ジェタークによって引き裂かれたこと。そしてスレッタを通して見ると二人の絆の深さを推し量れる可能性について示唆しました。
中編ではスレッタとラウダに揺れ動くグエルと、決定的に変わってしまった二人の関係について焦点を当てていきます。
※なお、この考察はあくまで私の考えであり、確定情報ではありませんので、この先設定が明らかにされて否定されても、私自身に責任は発生しないものとします。
当ページに載せているスクリーンショットは考察による説明の補足として引用しているものであり、三次利用はいかなる理由があろうとも禁止とします。
ラウダとスレッタに揺れ動くグエル
兄弟の考察をしていくと、スレッタとミオリネのロマンスの間にグエルが挟まっているのではなく、グエルとラウダの兄弟にスレッタが挟まっているような印象を受けるのです。
まーたとち狂ったことをついでに結論を申しますと、グエルが行ったスレッタへの最初のプロポーズ、あれはスレッタがラウダを失ってしまったその穴を埋められる存在だと思ったから、つまり言い方は悪いですがラウダの代わりになってくれると思ってとっさに掴んだのではないのかと思っています。
これはあくまで私の考えでしかなく、皆様の解釈や考察に戦線布告をするわけではない、ということを十二分に理解したうえで、つまり「私自身に責任は発生しないものとします。」ということをご承知の上でご覧いただきたいのですが…待って!根拠は!根拠はあるんです!
まず、グエルはラウダとスレッタで、同じ癖を2つ見せています。
1つめは、相手の発した言葉を受け止めた時と、大切なことを伝える前に目を閉じることです。
他の人間では目を閉じてから何かを言ったり、誰かの言葉を受けて目を閉じる、というようなことをグエルがしているのは確認できませんでした。ヴィムに「黙れよ!」と叫んだ時ぐらいでしょうか?ですがその後端末を拳で叩き壊しているので、もう顔も見たくないという意味が強いはずです。
なので、これは恐らく偶然ではありません。そして、意味も同じはずです。
「ああ(目を閉じながら)俺は、必ず勝つ!」「俺と(目を閉じる)結婚してくれ!」どちらも想いを込めて、相手に響いて欲しい、相手に伝えたい、という意図のもと発せられたものであり、目を閉じた後の言葉こそ、グエルが相手に本当に伝えたいメッセージです。
そして相手の発した言葉を受け止めた時。
ラウダの時には、「今は戦いに集中して!」というラウダのカットが終わり、グエルにカメラが移った時には、もう目を閉じていましたが、その前のヴィムと口論をしていた時には目を開いていたので、ラウダの言葉を受けて目を閉じたと見るのが自然なはずです。
スレッタ、ラウダ、二人の言葉を受け止めたグエルの出した感情はまるで違いますが、どちらもグエルの心を大きく揺さぶったのは事実です。この時を境にグエルはスレッタに惹かれ始め、ラウダとは距離を取るようになってしまった。つまり、この癖が発動するときは、相手の言葉がグエルの心にしっかりと届いたことを示します。
あるいは、格納庫で勝利を誓う前に目を閉じるのも、これが含まれているかもしれません。あの時はグエルの自尊心にヒビが入っていたタイミングだったので、ラウダの激励の言葉はグエルの心に届いたでしょう。
2つめの癖は、相手の話を真顔で聞くことです。
グエルですが、大抵怒っていたり蔑んでいたり、真顔で人の話を聞くことがあまりないのです。
ところが、ラウダとスレッタにはどちらにも真顔で相手の話を聞き入っているのです。
ラウダは、3話、格納庫で「兄さん」と声をかけられてからそれまでフェルシーとペトラに向けていた笑顔が消え、すっと真顔でラウダを見ます。それから「諦めてはいないんでしょう?」でカメラが戻っても真顔なので、ずっとこの静かな表情でラウダを見つめ、話を聞いていたことになります。そしてラウダも驚いていないので、ラウダの話を聞くときはこの表情が多かったのかもしれません。
スレッタは、同じく3話で「逃げない人を笑うのは、ダメ、なんです!」を聞いている時。
「逃げるよりいっぱい手に入るんです」と「お母さんが教えてくれたんです」を聞いている時。
あとは真顔かどうか怪しいけれど、真顔に近いものとしては。
3話で「あなたは強い」と言われている時、口がぎゅっと結ばれていて泣きそうなのをこらえているかのような感じですが、その後の表情には眉間に力が入っていないので、真顔に近い顔を向けていたのではないかなと思われます。
4話で「気にするな」とラウダに言っている時、離れている時、「わかっている…」と言う時、すべて寂しそうではありますが、真顔には近そうです。ラウダの「これ以上父さんを」の時にはカメラに映っているので表情は動いていないことがわかります。「ごめん、兄さん」の時には映っていないのでわかりませんが、ガラスに映っているのは凪いだ表情なのであまり変わっていないと思います。
5話でラウダのディランザを強奪して「決闘はダメだ!」と言われている時。真顔と言うには眉間にしわが寄っているけれど、怒っていると言うにはその後の顔と比べると真顔に近い、なんとも絶妙な顔ですが、この時グエルはラウダに見つかって父親のことも含めいろいろ言われてイラっとしていたとすると、それでもラウダの言葉を聞こうとして、真顔と怒り顔の中間みたいな微妙な顔になったのかなと。
このように、見えなくもないものを含めると、グエルは2人によく真顔を向けていたことになります。
(無と言えば水をかけられている場面もそうですが、あれは無視しているという文脈でしょうから除外ですし、ミオリネの言葉に真顔になったのも怒る直前の静けさだと思うので除外)
この他、実は3話でカミルに「機体の準備、できてます!」と言われている時にも真顔を向けているようなので、この感情を消したというより顔から力を抜いている状態は、相手の話に集中している時のグエルの癖なのかなと思います。
職場の先輩たちに向ける顔は、注意されている時もヘルメットはありますが眉間にしわが寄ってなさそうなので、この時も心が穏やかだったのもあるでしょうが、先輩たちの言葉や業務に集中していたから顔から力が抜けた穏やかな表情だった可能性はあります。
それからなんとセセリアにもこの真顔の表情を向けていたのですが、この前に「アドバイスですよ~」と言われていたので、馬鹿正直に(アドバイスか…)と真面目に聞いていたのかもしれません。その前は「俺と決闘したいならそう言え!」と怒っていて、「アドバイスですよ~」の直後ぐらいの表情なので。その後は普通に「あ、でも底値か」と言われて一歩踏み出すほど怒るので、多分一瞬でも真面目に聞いちゃったんだと思います。(セセリアにタメになること言われたことないだろうに…)
特にラウダは、「兄さん」と呼びかけられた段階ですぐに真顔になっているので、声をかけられた時点でもう真剣に話を聞く体勢になっているということで、ラウダの声にどれだけ敏感に反応していたか、ラウダの言葉を心待ちにしていたかがわかります。加えて互いに真正面で向かい合っていて、目の前にやって来ても変わらず見つめ続けているので、それだけ集中しているのかなと感じます。だからこそ、グエルはラウダの言葉に浮いて、猛烈に沈んでしまったのだろうなと。
こうして癖を分析すると、スレッタはラウダによって沈んだグエルを、見事にすくい上げているんですよね。
ラウダの言葉にグエルは辛そうに眉をしかめて、その後ぎゅうっとさらに眉が寄り肩が上がります。この時グエルはラウダが父さん側についた、自分の腕を信じずAIに勝利を託した側の人間だと気づいたので、もう自分のプライドがぺしゃんこになって精神的にはどん底に近いほどショックを受けているはずです。
ところがスレッタは、そんなグエルのプライドを見事にすくい上げてくれました。スレッタは今まさにぺしゃんこになったプライドを守ってくれた救世主です。それが目を閉じた後に、目を開いて、キラキラと光をたたえて、差し出された手を両手でつかむところからも、どれだけグエルにとって救いになったのかがわかります。ラウダから冷たく振り払われた手で、自分を理解してくれた人を今度こそ離さないように。というのは、私のポエミーな表現なので無視していただいて。
このように、ラウダとスレッタへ同じ癖を向けているし、それがラウダで落ちてスレッタで上がっている時、ラウダで傷ついてスレッタに救われた時に、それぞれで表現されている。タイミングも逆でないのも含めて、とっても怪しいんですよね…。スレッタの「逃げれば1つ、進めば2つ」も、ラウダのケアの前ですし…。
すでにアニメの描写だけでも怪しさが増したところで、先述したラウダとグエルの関係性も加えると、さらにラウダとスレッタの共通項が出てきます。
グエルがスレッタに惹かれるきっかけとなったのは、スレッタという勝者であり強者である存在からの、強さの肯定、彼の誇りに肯定を与えられたからです。
「あなたは強かった。」
しかし、ラウダがライバルであるとすれば、ラウダもまたグエルと対等で、圧倒的強者ではありませんが十分強い存在です。
そして明確に、意識的に惹かれ始めたのであろう「お父さんは大事。好きなんですよね。」
これもまた、先述の通りラウダは父親のことを引き合いに出して何度もグエルを止めようとしているので、ああは言っても、あの口論をして仲たがいをしても、グエルがまだ心の底では父親が好きで、ずっと認めて欲しい、信頼してほしいと願っていたことをラウダは知っています。
他にも、スレッタは「嫌です!」や「あなただってそうじゃないですか」と、グエルに対しては割と自分の言いたいことをしっかりと伝えます。ラウダもまた、「あんな田舎者の決闘を受けるなんて」と、言いたいことを伝えることを我慢しません。
グエルを叱ることも、2人はできます。スレッタはまだグエルのことを知らなかった頃から「そんなことしちゃ、ダメです!」とダメなことはダメと言い、ラウダも「授業中だよ、兄さん」「兄さん、なに馬鹿なことを!」「決闘はダメだ!」と言えます。
※「兄さん、なに馬鹿なことを!」と言ったとき、通信端末は破壊されていて声が届かない状態でしたが、オペレーターが伝えたのは「意思拡張AI、停止」だけなので、ラウダたちはまだ声が届かないことに気づいていない可能性があります。少し離れたぐらいなら声が届くのは、1話の時点で示されています。
決闘の助っ人を頼んだのも、グエルが強いことを知っていたのもありますが、受けてくれるかもしれないとスレッタが少しでも思った、信じたからで、グエルの夢を自分の人生に組み込んで一緒に応援して勝利を託したラウダもまた、グエルのことを信頼していたが故です。
このように、ラウダとスレッタはグエルへの対応が似ていたり、共通してグエルを理解し、信頼し、信頼しているということは好意を向けている。
あくまでグエルから見た場合ですが、二人は自分に対する対応が似ているのです。
もちろん、ラウダにとっては大切で大好きな家族で、スレッタからは最終的にも「この人、本当はそんなに怖い人じゃない?のかも?」程度で、グエルへ向けるそれにはかなりの開きがありますし、ラウダが聞いたらはちゃめちゃに怒るでしょうが、それでもグエルにとってスレッタは、己に残された唯一の蜘蛛の糸なのです。
なぜならグエルは、ラウダに捨てられたからです。
思い出してください。グエルがスレッタにプロポーズしたタイミングは、グエルが「お前も父さん側の癖に!」と吐き捨てた後、それまで自分を応援して支えて、自分側にいてくれていると信じていたその信頼が裏切られた後、つまりラウダを失った後です。
そしてグエルがスレッタに強く惹かれたのは、ラウダが今まで与えてくれていたであろう、自分の誇りへの肯定を与えてくれたからです。
そう、うがった見方をすれば、ラウダの代わりになってくれるかもしれない存在が現れたからです。
だから考える間もなく飛びつき、そして求婚した。結婚とは他者を家族にする契約で、ラウダはまさにその家族だったから。何より、ラウダのように心も人生も捧げて、一緒に未来を見てくれる存在の代わりなど、今を逃せば一生手に入らないかもしれない。
この時のグエルがどれだけ混乱しながらも真剣だったか、どれだけラウダが替えのきかない存在だったかは、この後のグエルを見るとわかります。
グエルは決闘の代償としてミオリネに謝りに行きますが、それはついでかのように二回もスレッタに「自分がどれだけスレッタに惹かれるわけがないか」を吐き捨てるように語ります。
自分が本当に傷ついたAIの件について謝ってくれる気配がなく、別の見当違いなことを謝ってくるラウダとも、喧嘩をしたくないと対応に気を遣い、イラっとしても怒鳴り返すこともしない。
※それにこの時搬出作業を行っているのが全員ジェターク社の社員なので、まさかラウダが回収されるダリルバルデをわざわざグエルに見せる訳がないと仮定すると、直接社員に直談判してギリギリまでダリルバルデを取り戻そうとしたラウダの元に、ラウダの訴えは却下される公算が大きいと見越してグエルがわざわざ足を運んだか、搬出されるダリルバルデを無力感に打ちひしがれながら見送るラウダの元にグエルが来たことになるので、グエルはグエルなりにラウダを気遣ってあそこにいた可能性が高いです。まぁグエルはダリルバルデを見に来て、ラウダとかち合ったのは偶然というのも否定はしきれませんが。
スレッタに急接近するエランをけん制しに行って、傷ついたスレッタに思わず逆上して決闘を取り付ける。けれど、これは逆にチャンスでもある。御三家に勝てれば父さんもまた俺を見直してくれるかもしれない。ラウダとだって、元の関係に戻れるかもしれない。見直してくれるかもしれない。(グエルはこの後「俺は「まだ」スレッタ・マーキュリーに進めていない!」と後悔しているので、この決闘をしたのは彼女に進むための動機ではなかったとすると、こんな動機だった可能性もあります)
敗北して、テント生活へと落ちぶれても耐えて、スレッタから直接共闘を請われても、グエルは首を振ります。「決闘は、父親に止められている」から。ラウダがあれだけ止めたのに無視して言葉の通りに父親の怒りを買ったから、もうそれに対する贖罪はひたすら大人しくしているしかない。これは最後のチャンスであり、もう1つでもアウトを重ねたら即刻退場になるラストゲームでもある。
けれど、自分はもうとっくのとうにアウトで、ラウダともう一度やり直すどころか、今や父の寵愛を受ける弟にとって一番の邪魔者となってしまった。だから、学園からもジェターク家からも遠く離れるしか選択肢はなかった。
そうしてグエルはグエル・ジェタークという名前も捨てて、誇りも捨てて、弟との思い出からも遠ざかり、それまでの経験が全く役に立たないところで生きていくことを決めた。
グエルの行動をラウダを軸として考えても、その行動はとても理解できるものとなるのです。
ただ、決闘を断った後「俺は、どうして…」と助っ人に行かなかったことを後悔しているので、最初にスレッタに告白したのは何かの間違いだと頑なに認めようとせず、ラウダに気を遣っていた時よりも、よりスレッタに揺れ動いています。しかしスレッタに対し「父さん」ではなく「父」でもなく「父親」呼びをしているので、ラウダとの距離がより空いたというより、父親との距離がより空いて、なぜ自分は未だに認めてくれない、許してくれない父親の指示に従ってスレッタを…と迷っているのかなと思います。
もちろん、これはあくまで私の考えであり、父親が理由でスレッタが理由でも意味は通る、これはあてはめたものを変えただけのものだとも言えます。
しかしラウダから遠ざかったことを世界から咎められるように、グエルの運命の歯車は見事なまでに狂っていくのもまた事実なのです。
3話の後、グエルはツキがなくなったようにどん底へと落ちていきます。
決闘を禁止されていたのに決闘をして敗北。寮を身一つで追い出されることに。
キャンプ生活をして、小物から罵倒を受けて水をかぶせられるばかりか、御三家であるシャディクに哀れまれる始末。
反省して大人しくしていれば今度は退学を父親から宣告され、これまた身一つで学園を出奔し行方不明に。
偽名を使って身分も捨てて今まで視界に入っていたかすら怪しい輸送船の下働きという仕事に。
だけどいい人たちに恵まれて安心できたのもつかの間テロに巻き込まれ命の危機に。
それもなんとかしのいだと思ったら、衝動的に動いて直接的に死にそうになり、挙句の果てに父親を誤って殺害してしまう。
書いていると悲しくなるぐらい見事な転落人生です。シェイクスピアの悲劇成分をひとりで担っているのか?
ただこれは、ダリルバルデでの敗北から始まっているのですが、ラウダを失ってから始まっているとも取れるのです。
エランとの決闘を決める時にも、学園を出奔するときにも、衝動的に動いてしまった最悪な判断ミスの時も、ラウダはグエルの側にいないのです。そう、グエルが転落する決断をするときには、いつだってラウダがいないのです。
あるいはスレッタに求婚した時にもラウダはいませんでした。あの時グエルは通信端末を叩き壊しています。そのおかげで制御権を取り戻すのですが、同時にラウダとの双方向の通信もできなくなってしまった。つまりラウダがいない状態と同じことです。
最後の最悪の判断ミスはスレッタが危ないと思ったグエルが動いてしまったから起きたものであり、ヴィムがグエルを退寮させ退学させようと決意したエラン戦でもスレッタを泣かせたエランを許せないと思った衝動的な行為で、スレッタに惚れてしまったあの時からグエルの人生は崩れていったとも見れる。そしてそれをしてしまったのは、ラウダが自分を見限ったと思い、ラウダの声を断ち切ったから起こってしまったことでもあるのです。
このように、グエルはラウダがいないと致命的な判断ミスをいくつも重ねてしまいます。
ただ反論として、最初のスレッタとの決闘の時にもラウダはいたのに、グエルは行動を改めなかったし結果敗北している。これはラウダといても致命的な判断ミスをするということなのではないか?とも考えることは可能です。
ですが、あの時点ではエアリアルがガンダムでありスレッタも一流のパイロットであるということは誰にもわかっていませんでした。シャディクも笑って観戦し、ガンビットを見てからエランも反応しています。
あれは誰も敗北を予見することなどできなかった、予定調和の敗北です。
むしろ、ラウダの忠告をきちんと聞き入れて踏みとどまっていたのなら、彼に一言相談したならば、ミオリネではなくスレッタが現れて、言葉尻にイラつくままに再戦するのではなく、ラウダが咎めているのを聞き入れていったん冷静になれば、この敗北はなかったかもしれなかった。
あるいは、もしスレッタではなくラウダ相手だったのなら、エラン戦での決闘も、最後の相手の危機の可能性に飛びだしたのも、すべてがうまくいっていた可能性があります。
まぁそんな状況どういうことなんだ、というツッコミはありますが。
エランという御三家がラウダに急接近してきたら「どういうつもりだ」と乗り込むのも正しい。ラウダを悲しませたエランに怒りをあらわに決闘を挑むのだって正しい。「どうして決闘を受けたの?」という問いには「家族だから」と答えられる。自分の機体が大破しているから弟の機体で出撃したのも、弟のための戦いで家族を守るための戦いであるなら無茶を通せる。決闘を禁じられていたとしても、弟にちょっかいをかけた、ジェタークを舐めた相手への報復ならヴィムだって許容するでしょう。
スレッタがいるかもしれないと飛びだしてしまった、あの最大の過ちですら、ラウダであれば仕方ないでしょう。家族が紛争地帯にいる可能性に飛びだすのは、弟想いの兄ならば致し方ないことです。
むしろラウダがいたならば上手くいっていたでしょう。前の考察でも言ったとおり、ラウダはグエルが駆るのならデスルターだって兄だと気づいたでしょう。ヴィムと一緒に行動したならその場で止められるし、船で待っていても通信で止められるし、聞く耳を持たなかったとしても、ラウダなら残っているモビルスーツに乗って何としても駆けつけたでしょう。
エラン戦での敗北ですら、弟のために立ち上がったグエルを叱る一遍通りではなく、弟を守ろうとしての事だと認める可能性もあるし、ラウダが当事者なのですからグエルだけが呼び出されても一緒について行って、グエルの味方になってくれたでしょう。
全部、ラウダだったら上手くいっていた公算はとても高いのです。
でも、ラウダはいなかった。そしてこれから先も、ラウダはいないかもしれない。これからどうなるかは2期が始まらないと確定ではないし、それを予測するのは水星の魔女はとても困難なので置いておくとしても、このままラウダとすれ違ったままでは、グエルはダメなんじゃないかなと個人的には思っています。
なにせラウダは、もろもろの考察が当たっているのならグエルにとって、人生を共に歩む大切な相棒で、自分を自分より理解して応援してくれている最大の味方で、戦うのが楽しい一番の好敵手で、何より唯一の弟で、お母さんがどちらもいなければ(そしてその可能性は多分高い) 今となってはただ一人の肉親です。
どれか1つだけ当たっているにしたって、どれか1つだけでも大きすぎる存在です。
ラウダと死に別れるにしろ、生き別れるにしろ、もう一度共に生きるにしろ、グエルとラウダは掛け違っているボタンがあまりにも致命的すぎるし、それを解決できなければ誤解したまま二人は進み続けることになってしまう。
なぜならもう元凶の父親もいない。二人が確かめ合わなければこの掛け違いには永遠に誰も気づけないのです。
知らずに加害者となってしまったグエル、気づいたら被害者になっていたラウダ
グエルが一番傷ついたのは、ラウダが父さん側に行ってしまったこと、父さんと同じようにそれに付き従うあのメカニックたちのように、自分の力量を信じてくれなかったことです。だから、「お前も父さん側の癖に!」と慟哭した。
ところがラウダからすれば、そんな事実は知りません。この考察でも、この考察でも申し上げている通り、ラウダはダリルバルデのAIが細工されていたなんて知らない、グエルの力量を疑ったことなんて一度もない。
「あんなことしなくても、兄さんは勝ちます。」
「今は戦いに集中して!」
ラウダは父親に「グエルは強い」と反論し、AIの自動操縦を知らなかったから戦いに集中するようにうながした。
ラウダはどうしてグエルが自分を遠ざけているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、許してくれないのか、何を謝って欲しいのか、何もわからないのです。
それを察することもできなかった。
グエルが唯一AI操作のことを嘆いたのは「俺の意思は…いらないって言うのか…!」の時だけで、これは多分マイク音声になってないし、ラウダは上の通りなので通信にも拾われていない。
口論している時も、まずヴィムが「グエル!何をやっている!さっさと片を付けろ!」と、まるでグエルに操縦権があるようなことを言っているし、その後グエルが言及したのは「まさか、さっきの排熱処理は…!」で、「汚い手を使わなきゃ俺は勝てないって言うのか!?」「これは、俺の戦いだ!俺の!俺だけの!」と、排熱処理の件しかラウダには伝わらない。
そして実際ラウダは排熱処理に関わってしまったので、「お前も父さん側の癖に…!」に反論できない。
その後も、グエルに許してもらおうとラウダは、ダリルバルデを取り戻そうとしたり、大事になる前に必死にグエルを止めたり、シャディクと取り引きをしてまでスレッタをホルダーから堕とそうとしたり、グエルのために尽くします。それでも、グエルはラウダを許してくれなかったばかりか、二度と会いたくないと言わんばかりにジェタークから逃げ出します。
しかも努力がすべて水の泡になったばかりか、自分のディランザは破壊され、寮長業務も決闘委員会としての役割も、仕事も責任もジェターク寮の子たちも何もかも一人で背負わなければならなくなって、挙句の果てに独りぼっちになってしまった。
そんな気はないし、ラウダはそうだと言わないでしょうが、受けた行為を羅列すれば、そして実際にラウダはAI操作に関わっていないのですから、いわれなき罪で糾弾される被害者です。
そしてグエルは加害者です。
本人にはそんな気はなくても、ラウダのディランザを奪って壊して、責任と負担のすべてをラウダに押し付けて、最後には遠ざかって、私情に囚われて自分とラウダの父親を殺害してしまった。それが例えラウダのためを思ってしたことでも、ラウダに罪がないことを知らなくても、自分だって死ぬほど辛かったとしても、行った行為には関係がない。
この二人は自分たちがそうなったと気づかないうちに、兄弟であるという前に、加害者と被害者という関係性になってしまった。
それはたった一つ、ラウダが父親のように自分の力を軽んじて、その意思をはく奪することを反対することなく手を貸したと思った、グエルの勘違いが原因で、その勘違いすら二人のせいではなく、父親であるヴィムが発端で解決できなかったのも含めてすべて父親のせいです。
ですが、希望はあります。
ヴィムがいなくなったことはとても悲しいことですし、兄弟がすれ違って命の危機にまで発展している元凶で、いなくなってしまった以上自分たちだけで原因を探って修復しなければならなくなったので、より難しくもなりましたが、逆に言えばかき乱す最大の要因が排除されたとも言えます。
もしグエルが戻ったとして、ラウダならば暖かく迎え入れるだけで終わるかもしれませんが、ヴィムがいればそれが途端にこじれます。グエルはまた余計なストレスを与えられることになり、ラウダはまた兄と父の間に挟まれて身動きが取れなくなってしまいます。
そうなる最大の懸念が消えた。
もちろん、グエルはラウダのことをまだ自分を見限った人間なんだと思っていますが、それでもヴィムが最後の一押しをするまで、ジェタークから離れようとは決してしなかった。むしろ、耐えてまた返り咲くチャンスを待っていた。
だからラウダのことを今でも本当に嫌いになっているわけではないのだと思います。
そしてこの二人は、声さえ届くのならばやり直すことも可能なはずです。
なぜならグエルとラウダは、二人でいてこそ十全に能力を発揮でき、お互いの足りない部分を補いあってより発展していくことができる、どうもそういう兄弟なようなのです。
まとめ
グエルから見ると、ラウダとスレッタには共通点があり、彼は二人の間を揺れ動いていて、スレッタにプロポーズをしたのはラウダを失った直後でスレッタとラウダに同じ癖を見せているので、ラウダの代わりとして求めた可能性があること。スレッタを求めて動いた結果グエルはどんどん最悪の結末へ近づいていきますが、それはラウダを失ったからと言い換えることもでき、二人はいつの間にか加害者と被害者という関係になってしまった。しかし二人が二人である限り、まだ希望はあるかもしれない。
中編はこのような内容でお送りしました。後編では二人がどれほどお互いを補い合い発展させていく存在なのか、二人でいなければどちらもダメになってしまう、そういう関係性なのではないかということを考察していきます。
※なお、この考察はあくまで私の考えであり、確定情報ではありませんので、この先設定が明らかにされて否定されても、私自身に責任は発生しないものとします。
当ページに載せているスクリーンショットは考察による説明の補足として引用しているものであり、三次利用はいかなる理由があろうとも禁止とします。